無効論の論破に論破??|日本国憲法の有効論VS無効論

憲法
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一般の憲法学のテキストでは、あまり日本国憲法の有効論と無効論に関して触れていないのが現状です。

現在の日本の憲法学者の姿勢は、この問題に関する法的な議論を避けております。

一方で政治家はどうでしょう?私の個人的なエピソードにこんなことがありました。

それは5月の憲法記念日でのフォーラムで、選挙区選出の国会議員と一般の出席者が質疑応答するシーンでした。出席者の20代男性が「日本国憲法は、法的に考えますと無効となるのが正しいと思うのですが、その点はいかがお考えでしょうか?」

これに対して、壇上の国会議員や地方議員はみんな困ってしまったんですよね。仕方なく、一番年長の自民党選出国会議員が回答することになり、

「えー、そういう議論もありますが、、その今ではあまり主張されないものでして。日本国憲法がすでに定着していることを踏まえても、その議論に意味はあまりないかと思います」

と答えました。当然あまり質問者の方は納得がいかないような顔でその場を収められましたが、質問自体に意味がないというのはあまりに失礼な男だなという印象を受けました。

いくら自分よりも年下であるからといって、そのような答え方はないでしょう。少しも論理的ではなく、回答になっていないと思います。

しかし、国会議員を代表としたほとんどの政治家も論理的な回答が出来るとは思いません。

これが政治家の一般的な回答であり、有効論や無効論に対して勉強不足であることがうかがえます。

「もうべつにそんなことは質問してこなくてもいいだろうが」という舌打ちをした議員もいたようで、現在の国会議員の見識のなさには毎度呆れるばかりです。

では、この20代男性に対してどのように回答すれば納得してもらえるのでしょうか?憲法無効論の是非を今一度問います。

国際法上から見た憲法無効論の是非

有効論を提唱する学者が存在しないのが実情

結論を言えば、憲法無効論が正しいです。

そもそも法的に有力な有効論が存在しないのが実情です。私も一度有効論で面白い著書を読んでみたいのですが、誰もが有効論に対して論じません。

有効論を擁護しようにも擁護出来ない。無効論の方が研究者の書物が何冊もあり、面白い主張が散見されます。

その結果、無効論を中心にお話を進めていくことになります。その点をまずお許しいただければと思います。※感情的な護憲派を除いて、実際に積極的に有効論を提唱する学者はいません。

誰もが積極的に論じない有効論に対して、無効論に関しては何種類もの無効理由や無効論があります。

1907年ハーグ陸戦条約を破ったアメリカの国際法違反

南出氏は、これまでの無効論を旧無効論とし、自ら新無効論を主張してます(『現行憲法無効宣言』〔萬葉社/2004年〕)。※南出氏の新無効論は後半で触れます。

旧無効論とは一般的に広く主張されている無効論のことであり、国際条約に違反して日本国憲法が制定されたので無効だと主張されているものです。

当時日本やアメリカが締結していた「陸戦の法規慣例に関する条約(1907年ハーグ陸戦条約)」の条約付属書「陸戦の法規慣例に関する規則」第43条(占領地の法律の尊重)では、

”国の権力が事実上占領者の手に移りたる上は、占領者は、絶対的の支障なきかぎり、占領地の現行法律を尊重して、なるべく公共の秩序及び生活を回復確保するためなしうべき一切の手段をつくすべし”と規定があります。

つまり、アメリカは占領地の法律を尊重する義務を逸脱し、日本国憲法を制定したので、その制定過程に不備があるために無効だとするものです。

そして、休戦条約として結んだポツダム宣言第10項には、「民主主義的傾向の復活強化に対する一切の障害を除去すべし」とあり、まったく帝国憲法の存在がその絶対的支障であり、その改正が必要だなどと記載はありませんでした。

よって、マッカーサーの強制により制定された現行憲法は、1907年ハーグ陸戦条約に違反する、国際法違反行為となります。

”特別法は一般法を破る”|条約法条約第59条

よく国内法の世界では、「特別法は一般法を破る」という原則が主張されます。

国際法の世界でこの原理と近しいものを国際条約の中から拾ってみると、それは条約法に関するウィーン条約(1969年採択)第59条に見出せるかもしれません。

この条約は、そもそも条約を結ぶ際のルールを定めた条約で、これまで一般的に国際慣習法と言われていたものを条約文の形として成文にしたものです。

日本もその後批准し、当事国は100か国を超えている普遍的な条約です。その第59条を参考のために以下に記載いたします。

第59条(後の条約の締結による条約の終了又は運用停止)

1 条約は、すべての当事国が同一の事項に関し後の条約を締結する場合において次のいずれかの条件が満たされるときは、終了したものと見なす。 (a)当事国が当該事項を後の条約によって規律することを意図していたことが後の条約自体から明らかであるか又は他の方法によって確認されるかのいずれかであること。(b)条約と後の条約とが著しく相いれないものであるためこれらの条約を同時に適用することが出来ないこと。

2 当事国が条約の適用を停止することのみを意図していたことが後の条約自体から明らかである場合又は他の方法によって確認される場合には、条約は、運用を停止されるにとどまるものとみなす。

すなわち、ポツダム宣言に明確に”明治憲法が、占領する上での絶対的支障となっており、これを改変する”と定めていればアメリカは占領において1907年ハーグ陸戦条約第43条の拘束から解かれることになります。

しかし、ポツダム宣言にはそのようには記されてはいないのです。アメリカの明らかな国際法違反であるのは間違いないでしょう。

ハーグ陸戦条約での”占領するうえでの絶対的支障”とは

ハーグ陸戦条約では、第46条に私権の尊重、第47条に略奪の禁止なども定められており、第43条における絶対的支障も、例えば占領軍が占領地を通過する上での道路法適用免除であるとか、その程度の法律不適用が認識されていると思います。

ましてや、占領地の現行の法律を尊重する義務があるのですから、その国の根本法である憲法を改変することなど許されるわけがないのです。

ですので、アメリカも、建前としては日本の立法府を裏で管理・監督するというやり方で明治憲法を破棄しております。

しかし、それでも第43条は当然そういう状況を想定していたため、条文中にわざわざ”国の権力が事実上占領者の手に移りたる上は”と条文の中に規定しております。

有効論側は、この点に対してまったく有効な反論をしておりません。

これが国際法上における日本国憲法無効論です。

国内法上から見た憲法無効論の是非

通説である憲法改正限界説-憲法9条の改正は不可能!?

憲法改正には限界があるのか、それともないのかという憲法学の議論があります。

これは一般に憲法改正限界説が通説であり、ゆえに、日本国憲法も平和主義・国民主権・基本的人権の尊重などの憲法の大原則に関しては改変を許されておりません。

特にその「平和主義」の中身を語れば、日本の平和主義とは、前文や第9条に記載があるように、国の防衛を軍備によらず国際的信義に頼るというもので、軍隊を放棄し戦力を持たないことがその中味となっております。

ですので、9条を改正して、軍隊と戦力、そして交戦権を持つことは許されない憲法改正となるでしょう。その憲法改正は無効となります。

※憲法改正派は憲法9条改正を主張しておりますが、それは憲法改正の限界を超えるので不可能です。

憲法改正限界説からの日本国憲法無効論

当然この限界説は、明治憲法にも適用され、制憲権の帰属や国体、欽定憲法など明治憲法の大原則を超える改正は認められません。

日本国憲法の正式名称は、実は「大日本帝国憲法の昭和21年改正」です。国民主権や国体に関する条文の削除など、このような限界を超えた改正は無効といえます。

また明治憲法のどの条項がどのように変更されたか(ex.第○条を次の通り改正する)かも不明で、枢密院や帝国議会、貴族院などもどこにいったのかまったく何の規定もされておりません。

これでは形式的にも実質的にも改正とは認められず、一方で”明治憲法を破棄した”と当時の立法府が宣言した事実もありません。

これが憲法改正限界説からの無効論(国内法上からの無効論)と言われるものです。これに対して、有効論主張者は論理的に反論することすら放棄しています。

法的な議論をかたくなに拒否する有効論者たち

私の姿勢としては、法理論的に考えて妥当な結論を採用するというのが本記事の執筆動機/姿勢です。

有効論でも、無効論に対して法的に反論し、その有効に関して法的な説明が組み立てられるのであれば有力説となりうると思います。

しかし、そもそも有効論は積極的に唱えられていないというのが現状です。

正確に言えば無効論者はいるけれども、有効論者はいないというのが実情です。

例えば、古野豊秋編『新・スタンダード憲法〔改訂版〕』(2008年/尚学社)では、無効論を簡単に説明した後で、

「しかし、現在わが国の法秩序を基礎づけているのが日本国憲法であることは、否定すべくもない事実である。(略)事実認識の問題として捉える限り、日本国憲法が無効であるとの議論にはあまり意味がない。」という見解を表明しております。

憲法学と言うれっきとした法学の学問の一つであるにも関わらず、法的に考えることを放棄するという姿勢です。

厳しいことを言えば、古野氏を始め、日本の有効論を支持するものは法学の分野で学者を名乗る資格を失ってしまったということです。

学問の領域として法的に議論を組み立てることを放棄してしまっており、有効論者が存在しないというのはこの事実を指します。

帝国憲法第75条の類推解釈による日本国憲法無効論

一般的な無効論とは違い、南出氏は新無効論を唱えております。彼は、まず帝国憲法第75条に「憲法及び皇室典範は摂政を置くの間これを変更することをえず」とあることに注目しました。

天皇が何らかの事情(ex.幼少であるとか)で天皇大権など国務を行えないときは摂政を置くのですが、その憲法改正の発議権という天皇大権だけは摂政においても代理が許されない行為であり、

そのような「通常の変局時」でさえ憲法改正をなしえないのに、連合軍の完全軍事占領と言う極めて”異常な変局時”に、同条の類推解釈から考えて憲法改正は行えないと主張しています。

これは憲法限界説と同様に、国内法上からの無効論と言えるでしょう。

しかし、大枠としてアメリカの国際法違反行為による、改正行為自体がそもそも日本国憲法を無効とさせるという結論でよいかと思います。

アメリカを直接拘束するのは外国の国内法ではなく、国際条約ですから。

議論を少しまとめると、国際法上からも国内法上からも憲法改正は無効であると整理できます。

国際法上からは、憲法改正行為自体がしてはならない禁止行為であるとされ、国内法上では憲法改正限界説や第75条説により改正の中身が憲法無効の原理に触れているということですね。

補足:「定着説」や「追認説」の本質的な弱点とは

古野氏ら有効論者の議論は、しいて言えば、それが法学的な議論であることはともかく、、、、、、、、、、、、、、、、、「定着説」とか「追認説」と言われることがあります。

自衛隊を論議するにあたって、”憲法の変遷”が語られることがあり、つまり「改正手続きを経ないで、憲法の条文の語句はそのままで憲法の意味内容が実質的に変化すること」を言います。

違憲の国家行為が反復・継続されることで憲法を改廃したと同様の効力を持つという議論です。このような議論を一部移植して、「定着」したのだと語るのか。

その点に関しては有効論者はそもそも議論を放棄しているので定かではないです。ただこの憲法の変遷も一般に肯定されたものではなく、学会の通説・多数説となっているわけではありません。

それは一体いつ「定着」したのか、その「追認」行為は誰のどのような行為を指すのか、そもそも学問的な議論で正当化できるのかといった本質的な問題提起がなされうるからです。

繰り返しますが、法的なレベルで有効論は存在しない。主張することを諦めているのが日本の憲法学者のこの問題に対する姿勢です。

憲法無効論の実際の手続きと国民生活への影響とは

憲法無効論は衆議院の過半数により無効確認宣言をすれば足ります。

その無効がなされたとしても、明治憲法第76条第1項に「法律規則命令はなんらの名称を用いたるに関わらず、この憲法に矛盾せざる現行の法令はすべて遵由(≒遵守)の効力を有す」とあるので、

刑法や民法などこれまでの基本的な法律の大部分は明治憲法下でも成立しています。

明治憲法は、信教の自由、言論の自由なども認められていますので、基本的人権も充分に尊重されております。

兵役の義務など、一部国民生活に影響が出る部分もありますが、軍隊が極めてハイテク化され無人機での爆撃機導入が潮流となっている現代の情勢を考えて、その点は慎重に判断していくのが実情に適っていると思います。

弁護士や裁判官、国会議員など一部のエリート層は混乱するでしょうが、一般国民にはさほど大きな影響は出ないでしょう。

司法関係者を除いて、現行憲法や法律のことを毎日考えて生活されている方はまずいないですから。

まとめ:有効論を法学的に主張することは不可能であり、日本の憲法学者はみな諦めているのが実情

結論として、まともな日本の憲法学者は有効論を唱えていないのが実情。法学的な議論を避け、日本国憲法無効論/有効論に関してほとんど何も語ろうとしない。

無効論に関しては国際法上からの憲法無効論、国内法上からの憲法無効論があり、法理論的にみて妥当なものである。有効論を主張するのは法学的な議論を無視するところにしか成り立たない。

補足すると有効論に関しては、他に8月革命説というダジャレ、、、、みたいな主張もあり、

今でも大手出版の憲法学のテキストでは明確に否定しないどころか、”法学的に説明する法理”とまで説明した記載もあります。

安定した積み重ねの学問領域である法学の世界に、「革命」という言葉を結び付けるのはあまりにナンセンスであり、もし本当にこんなことが起こり得るのであれば英訳して全世界に大々的に発表すればいいのです。

全世界の笑い者となりたくない日本の憲法学者は、誰もそんな馬鹿なことをしませんが(了)。

※もし8月革命説に関して知りたい方はぜひ下記の記事もご参照ください。

60秒で読める!この記事の要約!(お忙しい方はここだけ)

要約
  • そもそも法的に有力な有効論は存在しない。有力論者はこの問題を無視し、積極的に議論しないのが実情である
  • 憲法改正への着手は、日米が当時締結していた1907年ハーグ陸戦条約に違反しており、ポツダム宣言などにもその改正を訴える条文がない(国際法上からの無効)
  • 現行憲法の平和主義のように、憲法には改正してはいけない領域があり、憲法改正限界説が通説である。明治憲法から現行憲法への改正はその限界を超えている(国内法上からの無効)
  • 有効論者は”事実認識の問題だ”などと主張し、無効論に反論することもせず、そもそも法的に議論することを放棄している
  • 無効論は衆議院の過半数を以て無効宣言を行え、帝国憲法下でも第76条1項により多くの基本法はその成立を認められる。司法関係者を除いて、国民生活に影響はない

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