米兵犯罪は日本人犯罪よりも少ないのか?統計データより肯定派と否定派の主張を検証

政策争点
Photo by Bill Oxford

「基地外での米兵による犯罪率は日本の犯罪率の”約半分”だ」

もう10年以上前のニュースです。この発言は2008年7月在日米軍司令官エドワード・ライス(Edward Rice)の東京での記者会見のものです。

当時は(今も)”裁かれない米軍犯罪”とか、”基地の周りでは米軍犯罪が多く無法地帯となっている”という認識ですから、この発言に違和感を覚えた日本の方は多かったと思います。

この発言の影響力は大きく、今げんざいでも「はたして在日米軍の犯罪は多いのか?少ないのか?」というテーマでネット記事を何本も見つけることができます。

その中で少数派ですが、統計データなどを調べて”米兵犯罪は実際に日本人犯罪よりも少なく、凶悪事件を過度に報道することの印象操作だ”という記事もありました。

実際はどうなのでしょうか??もう10年以上経ちましたが、あらためてライス発言を肯定する方(肯定派)と否定する方(否定派)の検証をしてみたいと思います。

※統計データは、警察庁の『犯罪統計資料』や沖縄県警の『犯罪統計資料』など、公開されているものを確認しました。

米兵犯罪は日本人犯罪よりも少ないと主張する方の2つのポイント

”米兵犯罪は日本人犯罪よりも少ない”と主張する方の意見のポイントは二つあります。

一つは、否定派の主張は統計データに基づかないで、強盗殺人や強姦を強調し印象論で語っている。

一つは、統計データを確認・分析すると実際に米兵犯罪は日本人犯罪よりも少ないことがわかる。

ネットで確認できた肯定派の方の統計データの分析の仕方と同様に、私も最新のデータで再検証してみたいと思います。

沖縄県警がHPで『犯罪統計資料』を公表しておりまして、そこには”在沖縄米軍人・軍属及びその家族による検挙件数・検挙人員”のデータが掲載されております。

H30年のデータでは、米軍構成員事件では検挙件数31件、検挙人員が32人です。

一方で、沖縄県全体の全刑法犯の検挙件数は3919件、検挙人員は3006人でした。

沖縄県人口は145万人に対し、在日米軍・軍属及びその家族の人数は4.5万人です。つまり、全体で犯罪者数を割ってみると、3006÷145万人=0.20%、32÷4.5万人=0.07%となります。

ということは、全体数と比較してみた結果、米兵犯罪は日本人犯罪よりも犯罪率が半分以下であるというライス司令官の発言は裏付けられることになります。

しかし、ここには決定的な間違いがいくつもあるんです。

検挙件数や検挙人員を分子に選ぶのは不適切|分析方法の誤り

確かに否定派の方は、”こんなに凶悪犯罪があるんだ!少ないわけがないだろう”という印象論で語っているところがあるのは事実です。

ですが、これを単なる印象論で片付けることも正しくないのです。

先の分析方法に話を戻しますが、残念ながらこの分析方法では実態を隠してしまうことになります。

まず”検挙件数や検挙人員”のデータで分析している点が問題なんです。

分析の前提となる・・・認知件数と検挙件数の違いとは??

例えば警察庁が公表している『犯罪統計資料』(H31.1~R1.12)では刑法犯の総数が約74万人でした。ですが、これは”認知件数”であり、検挙件数は約29万人。

この認知件数というのは、実際の犯罪発生数とイコールではありません。あくまでも警察がある事実を刑法に違反する行為として認めた数」のことです。

つまり、一般人からの通報や告発などで警察が犯罪を認知できた数であり、被害届が出されていなければ、そもそもこの”認知件数”自体に入らないのです。

一方で、”検挙件数”とは警察が犯罪事件を解決した数(犯人を特定した数)のことを指します。

逮捕も検挙の一つですが、逮捕は犯人の身柄を拘束する手続きのことを特に指します。検挙の場合は、身柄拘束は場合によりまして、その多くは任意同行ですね。

たとえば万引きや自転車ドロといった「微罪事件」は検挙にあたります。逃げたりしなければ、逮捕されることにはなりません(※その場合は現行犯逮捕となりますね)。

米兵犯罪の認知件数のデータを出したがらない沖縄県警!?

警察にとって検挙とは企業さんの「売上」みたいなものです。

実際に犯人を特定して逮捕できたのですから。そして、日本国内でもっとも検挙(逮捕)されにくい組織が在日米軍なのです。※次節で詳しく解説していきます。

ここまでをまとめると、検挙数とは犯罪発生数ではないということ。

犯人を特定し解決した数が検挙数であるが、在日米軍はもっとも検挙されにくい組織であるということです。

肯定派の誤りは検挙数を分析データに選んだということなんです。肯定派のみならず、否定派の方も統計データを分析しているネット記事はありますが、

すべてが”検挙件数”のデータで分析しております。

きわめて作為的なのですが、沖縄県警のHPは沖縄県全体の刑法犯に関してはその”認知件数”も公表しているのですが、外国人犯罪や在日米軍犯罪に関しては”検挙件数”しか公表しておりません。

ですから、肯定派や否定派の方の分析方法の間違いというのではなく、検証するうえで必要なデータが公表されていないということ。

米兵犯罪の実態をつかむには認知件数のデータが必要なんです。

もし公表すれば、沖縄県警や日本政府が困った事態になるからでしょうか??残念ながら、その可能性は極めて高いと思います。次節でその点をお話しします。

「裁判権放棄密約」により米兵は裁かれないという実態

日米地位協定という在日米軍人・軍属及びその家族の日本国内での”特権”を定めた国際協定があります。

それだけでも大問題なのですが、その地位協定第25条に、地位協定の実施に関して日米が話し合う協議機関として”日米合同委員会”という機関が設けられております。

実はこの合同委員会が、きわめて恣意的な法的解釈をもとに、日本国民の権利を侵害するような ”密約”を結び続けているという現状があります。

本来裁くべき犯罪を米兵なら見逃してやる日本政府

”密約”の中に「裁判権放棄密約」というものがあります。

まず地位協定第17条(刑事裁判権)では、米軍犯罪を日米でどのようにすみ分けるかが記載されており、

公務中の犯罪や米軍同士の犯罪(被害者も加害者も米軍)の場合は米国が、公務外の犯罪は日本が第1次裁判権を持つということになっております。

しかし、日本側は合同委員会の非公開議事録(53年10月28日裁判権分科委員会・刑事部会会合)で

日本にとっていちじるしく重要と考えられる事件以外については、第1次裁判権を行使するつもりがない」と日本側の代表が約束しているのです。

合同委員会の議事録は原則非公開で、日米双方が同意した場合のみ公表されるという非常に機密性の高い文書です。

が、米側の公開文書によりその事実が発覚し、2011年8月松本剛明外相(当時/民主党政権)もその事実を認めたのですが、

「日本側代表の発言は、起訴・不起訴について日本側の運用方針を説明しただけで日米間の合意ではない」と密約を否定するに至りました。

もはや日米双方で公表されたので”密約”ではなくなりましたが、ともかく裁判権放棄密約、つまり第1次裁判権をもつ公務外事件なのに不起訴にし裁判権を行使しない、

本来裁くべきであった犯罪を見逃してやる、という日本側の実態が明らかとなりました。

補足:米兵犯罪の起訴率は日本人の3分の1以下(裁かれない米兵犯罪)

その後53年10月7日付で法務省刑事局長から全国の高等検察庁の検事長、地方検察庁の検事正宛てに「部外秘」の通達が届き、

それには”米軍関係者を「法務大臣の指揮」のもとで特別扱いし、一般の刑事事件とは異なる対処をしなければならない”とその特殊性を強調し、特権的立場を明らかにしております。

日本政府は表では「米軍関係者の犯罪と一般の犯罪で起訴・不起訴の判断に差はない」と説明しておりますが、

吉田敏浩が情報公開法に基づく文書開示請求で得た、米軍関係者の犯罪に関する法務省刑事局の統計「合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」では事実は異なります。

01年から14年の日本側に第1次裁判権のある刑法犯を見ると起訴率14.7%に対し、日本人のそれは45.4%と3倍程開きがあります。日本政府は米軍犯罪を常に見逃し続けてきたのです(吉田敏浩『「合同委員会」の研究』)。

米兵は悪魔か??日本当局の米軍犯罪に対する甘い姿勢

私は、一部の否定派の方の過激な意見(米軍は悪魔だから犯罪が多い)にくみしませんが、

日本当局の米軍犯罪に対する甘い姿勢は、米軍関係者の中に”これくらいなら罪に問われないだろう”という意識を植え付け、米兵犯罪が後を絶たない温床となっていることは指摘したいと思います。

米軍人や軍属及びその家族の人間性の面ではなく、米軍関係者の犯罪を誘発する構造的な要因の指摘です。

”不逮捕特権”により検挙(逮捕)されない米軍関係者

問題はまだまだ続き、地位協定第17条5項cには、日本側が起訴するまでは被疑者の身柄は米軍当局の下に置かれるという規定があります。

米軍関係者が”公務中だった”と言えば、日本の警察はひとまず米側に身柄を引き渡さないといけないのです。

もちろん米軍関係者はこの事実をとうぜん知っております

その際、あとで日本側に第1次裁判権があると分かったとしても、日本側の捜査は任意の取り調べとなり難航し、

被疑者を十分に取り調べられず証拠固めが困難となり起訴できずに終わる可能性が高いのです。

基地内に逃げ込んでしまえばもう安心??

またよく”米軍基地に逃げ込んでしまえばもう捕まえられない”と聞きますが、これもほとんど的を射ております。

ただし日米地位協定第17条第10項に関する合意議事録では「重大な罪を犯した現行犯人を追跡している場合において日本国当局が基地内で逮捕を行うことを妨げるものではない」という規定があり、

凶悪犯罪(殺人や放火等)に関してのみ基地内での逮捕は認められております。

その他の場合でも”米軍の同意がある場合も逮捕できる”とありますが、まず米軍が同意することはありません(末浪靖司『機密解禁文書にみる日米同盟』)。 

ましてや米軍基地内では米軍の”排他的管轄権”が認められているのが実情ですので、基地内(もはや外国)での米兵犯罪に関しては全く日本国当局は関知しておりません。

ですので、冒頭でのライス司令官の発言も”基地外での犯罪率”と前置きをつけているわけです。

目をつけていた日本人女性を朝にレイプし、夕方には国外に逃げる米兵

基地外で罪を犯した場合も、たとえば米兵が罪を犯した当日に国外の基地へと移動する場合であれば、なおさら逮捕することなど不可能となります。

実際に米兵が犯したレイプ事件の中には、夕方にグアムに移動することが決まっていた米兵二人が共謀して、

朝方に前から目をつけていた日本人女性を強姦するという計画的犯行も起こっております。

米軍関係者の犯罪がいかに見逃されるか、そのいわゆる”不逮捕特権”という実態を、他ならぬ米軍関係者自身がきわめてよく理解しているということなんです。

日本の警察の”捜査・逮捕の限界”と認知の「つぶし」

米軍関係者もそうですが、もう一方の当事者である沖縄県民や沖縄県警もその事実をよく理解しています。

米軍のレイプ事件は日本人女性のみならず、たまたま基地周りに来ていた外国人女性にも犯罪が及んでおり、

”日本の警察に駆け込んでもせせら笑うだけで全く相手にされなかった。私はそこでセカンドレイプを受けたのだ”という話があります。

これは沖縄県警の話ではありませんが、米兵犯罪に対して日本の警察は”捜査・逮捕の限界”を感じているのは事実でしょう。

泣き寝入りする被害者も多い=犯罪は発生していないということに!?

もちろん沖縄県民の方も十分理解しており、被害者の方の中には”泣き寝入り”する方も多いのではないでしょうか。

繰り返しますが、認知件数とは犯罪発生件数ではなく、被害届が受理されなければ認知件数にカウントされないんです。

統計データに表れた数字がすべてではないのです。

また現状で米軍犯罪の逮捕(検挙)は非常に困難であります。

ましてや検挙されたとしても米軍特権として不起訴になる確率が高いのですから、警察がどこまで本気で捜査するのか疑わしいです。

米軍犯罪が少ない説を主張する方にはまだまだ不利な事実があります。

警察が被害届を「にぎる」=認知をなくしてしまうということ

以前は警察の中で検挙数・検挙率が評価対象だったのですが、最近は「犯罪抑止率」が評価対象となっております

目標(ノルマ)に”前年比犯罪抑止率10%減”というものが出てきたということです。仮に前年認知件数100件だとすれば、今年は90件にしなくてはいけないということです。

実際に警察庁の『犯罪統計資料』ではH19年は190万人、H20年は180万人、H21年は170万人、H22年は158万人、H23年は148万人、H24年は138万人と認知件数が下がり続けているんです。

ちなみにH31年も74万人で、その前年のH30年は81万人でした。毎年約10万人ずつ犯罪件数が減っているんです。

それは前年比10万人減という数値目標が出ており、現場の警察官は被害届を「にぎる」又は「つぶす」という行為をしているということなんです。

すなわち”認知をなくしてしまう”ということをしているんです(小川泰平『警察の裏側』)。

米兵犯罪は”なかったこと”にされてしまう可能性は高い

率直に言って、警察の『犯罪抑止』が効果を上げていると主張するのは難しいでしょう。

犯罪件数など変動があるのが自然なのに、毎年10万人ずつ図ったように減少していっているんです。

人為的にしか起こりえない現象でしょう。

この事実を見ても、警察は被害届を「つぶし」ているのは間違いありません。

これと同様に、日本の警察は米軍関係者の犯罪事件をそもそも捜査などせず、「つぶし」てしまっている可能性はあり得ます。

当たり前ですが、認知されなければ検挙もされません。

米軍犯罪は検挙がきわめて難しく、日本の警察は主体的な捜査ができないので、認知すらしていない可能性は高いと思います。

※検挙(逮捕)されない米兵犯罪の実態に関してはこちらの記事もお読みください。

まとめ

結論として、現在公表されている統計データから米兵犯罪を日本人犯罪と比較することはそもそも適切ではないということ。

米軍関係者は”裁判権放棄密約”を代表する様々な米軍特権で守られており、逮捕(検挙)することが難しい。

検挙数で日本人犯罪と比較すると、米兵犯罪率が低くなるのは当たり前だ。

基地内(もはや外国)での米兵犯罪は闇の中であるし、泣き寝入りしている日本人被害者も多いと予想される。

となれば、認知件数(非公表)も実態をていしていないかもしれない。それでも沖縄県警HPは米軍関係者の認知件数を意図的に公表していない

残念ながら、在日米軍関係者の犯罪率は日本人と比べて低いとはまず言えません。

ですが、統計データが公表されていないので、”○○倍高いのだ”とも言えません。

それに基地内犯罪や泣き寝入りしている方も多いでしょうから、統計データを情報公開法で文書開示請求したとしても実態の把握に限界があると予想されます。

最終的には、”おそらく日本人犯罪率よりもきわめて高いのではないか”という結論に落ち着くと思います(了)。

※日米地位協定という不平等条約の実態はこちらもご参照ください。

60秒で読める!この記事の要約!(お忙しい方はここだけ)

要約
  • 警察庁や沖縄県警の『犯罪統計資料』を基に分析すれば、米軍犯罪率は日本人犯罪率の半分以下となる
  • が、”検挙件数”を基に分析するのは不適切だ。米軍関係者はきわめて検挙(逮捕)されにくい特殊な地位を持つ特権的立場にある。よって”認知件数”(非公表)で分析しなくてはいけない
  • 「裁判権放棄密約」による起訴率の低さもそうだが、起訴前の被疑者拘留ができず十分な取り調べができない日本の警察には、”捜査・逮捕の限界”がつきまとう。米軍関係者は日米両政府により何重にもその特権を守られた存在だ
  • 検挙しても不起訴になる米軍犯罪は被害届を警察が「つぶし」てしまう可能性もあり、被害者も”泣き寝入り”している。基地内(もはや外国)犯罪のデータもない。現状では判断ができかねるが、米兵犯罪誘発の構造的要因も踏まえると、米兵犯罪率は日本人犯罪率よりもきわめて高いのではないか、とは言えるだろう

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