2016年、沖縄県うるま市でまたしても米軍の、日本人女性に対する強姦殺人事件が起こりました。
正確には、米軍人ではなく、米軍に雇われている業者でした。
日本でも、地方自治体から仕事をもらっている業者は多いと思います。競争入札を経て、仕事を受けるはずです。
もちろん、公的な仕事をしているからといって、彼ら業者が「公務員」の権利を受けることはありません。
ところが、日米地位協定では、業者さえも「公務員」扱いをされ、在日米軍兵士が日本国内で享受する治外法権的性質をもらえる。この強姦殺人事件も一時は無罪放免か、となりました。
沖縄県民の怒りが再沸騰し、世論が動いたためにそのような事態とはなりませんでしたが。一時は米側が裁く=無罪とする、そのようになりかけました。
沖縄市は毎年、日米地位協定改定要求をしております。これは全国の地方自治体も賛同しております。
ところが、当時の安倍政権は、地位協定改定ではなく運用改善で十分対応できると豪語し、
”安倍政権の功績”として地位協定の運用改善に当たる二つの補足協定(環境協定・軍属協定)を成立させたと主張します。
今回はそのうちの一つ、『軍属に関する補足協定』に関し中身を確認し、うるま市強姦殺人事件のような悲惨な事件が今後も起きないように、事態が改善されているのか。検証していきたいと思います。
2016年沖縄県うるま市、米軍族による日本女性への強姦殺人事件発生
『軍属に関する補足協定』は2017年1月16日に締結されました。
前年の4月、沖縄県うるま市で米軍属による、当時20歳の女性に対する強姦殺人事件が発生し、
米軍人・軍属へのさまざまな特権、すなわち、
日本の法律の適用を免れる不平等・不公平な地位協定に関し沖縄県民の怒りが再沸騰。
この沖縄市民の世論を鎮めようとした結果、生まれたのがこの『軍属に関する補足協定』です。
他国の地位協定では特権を付与しない”業者”が日本では軍属扱い??
そもそも今回の事件の被疑者は、他国の地位協定では軍属に当たりません。
※軍属とは、米軍に直接雇用されたものを指します。
ただ米軍基地内にある民間会社に勤務していた者で、一般にコントラクター(契約受注者)といって、軍人や軍属と区別される”業者”です。
業者には、刑事裁判権免除などの特権を与えないのが国際社会の常識ですが、日本の地位協定では軍属と業者の区別が明記されておりません。
業者であっても「軍属」に含まれ、刑事裁判権免除などの特権を与えてきたわけです。
これは、あまりマスコミも報じておりませんが、日米地位協定は諸外国のそれと比べて、著しく不利なものとなっているのです。
ここで、事件に対して少し補足しておきます。
うるま市強姦殺人事件の被疑者は、米海兵隊員として2014年まで働いており、沖縄基地でも勤務経験がある男でした
また、日本人女性と結婚し、うるま市に日本人配偶者として住民登録もされています。他にも勤務時間外に事件が起きていることなどを理由に、最終的に日本側が裁いており無期懲役が確定(2018年10月)しております
結局、今回の事件では世論の後押しもあり、日本側が裁くこととなりました。
しかし、これは氷山の一角であり、他のケースでは泣き寝入りをしている場合が多いでしょう。
ともかく刑事裁判権を免れる特権を与える対象が広すぎるということで、
この軍属の範囲を明確にしよう。軍属と業者の区別を確認しようということになりました。それで出来上がったのが『軍属に関する補足協定』です。
その結果、米軍属の数が減少すると思っていました。しかし、2年後の米側の定期報告ではなんと4千人近くも増えてしまいました。
『軍属に関する補足協定』は抜け穴だらけ|日米地位協定改定は急務!?
『軍属補足協定』は、軍属に含める対象範囲を広げてしまいました。
これは、軍属の定義をより厳格にし、「刑事裁判権を与える対象を制限しよう」という日本側の目的とまったく相反する結果となりました。
一般に、軍属とは米軍に直接雇用される者です。ですが、『軍属に関する補足協定』では
在日米軍に随伴し、これを直接支援するサービス機関の人員であり、かつ合衆国軍隊に関連する公の目的のためにのみ日本に滞在している人員、そして、
合衆国軍隊の任務にとって不可欠であり、かつ、任務遂行のために必要な高度な技能又は知識を有しているコントラクターの被用者なども軍属に含まれる
売店の店員も「軍属」(公務員扱い)になる??
現代では、軍事関連サービスを行う民間委託会社が戦争ビジネスに参入しており、戦争の民間受注が一般的です。
イラクでもアフガンでも、米国防総省はそのような民間業者にパトロール等の護衛を委託しています。
このような業者には特権を与えないこと。米軍が直接雇用し管理監督する=米軍の責任を問うことができる者だからこそ特権が与えられる。
このロジック(論理)は誰が聞いても明快です。
しかし、日本では”公の目的”に従事していれば軍属に含めるとしています。
日本の市役所には売店がありますよね。そこで働いている従業員はもちろん公務員ではありません。
しかし、米側の理屈では「公の目的」のため働いているので公務員としてしまいます。米国がにとってあまりにも都合のいい「むちゃくちゃ」な協定でしょう。
この協定では、軍属の範囲を8種類(a~h)定めていますが、
8つ目の項目hでは”合同委員会によって特に認められる者”を付け加えております。
もし今後の運用で、この類型の中に漏れるような者が出てきても、この「h項目」さえ用意しておけば、誰でも軍属にしてしまえる米側の予防策でしょう。
いったい、日本政府はこの『軍属に関する補足協定』によって、何がしたかったのか。もはや日本政府の行動は「不可解」としか思えないのです。
米軍支配下の「作業部会」ですべてを決めてしまう、日米の力関係…
この補足協定が出された翌月、衆院から質問主意書が提出されております(提出者・照屋寛徳代議士)。
照屋議員の質問は以下のようなものです。
具体的に軍属人数はどのように増減するのか? また、合衆国軍隊の任務にとって不可欠か否かなど、その認定する主体は日本政府?それとも米国政府なのか?そして、軍属の扱いに関しても、
”合同委員会により特に認められる者”(h項目)として地位が付与される場合、その当該合意はきちんと公表される制度設計になっているのか?
それに対し、政府答弁は木で鼻を括ったようなものであり、
補足協定が今後運用されていく中で把握できるものであり、現時点では具体的に示すことができない。また、認定主体は米国政府である。
しかし、日本側も「作業部会」において疑義を呈し一応は協議できる。
また、h項目は今後必要に応じて付与されるもので、現段階では何もお答えできないというものでした。
政府答弁を確認すると、全体的に”今はまだわからない”し”今後の運用は「作業部会」にて決める”ということです。
日米両政府の力関係をみても、この「作業部会」は米側のほしいままに決められる下部組織になることは目に見えております。
軍属が逆に”増えてしまった”ことに対する日本政府の弁解
『軍属に関する補足協定』の第5項(全8項目)では、
コントラクター(業者)が軍属に含まれるのかに関し、その見直しの進捗状況は半年ごとに日本国政府との間で共有され、協定の2年以内に日本国政府に報告される
とあり、その報告がなされたのが平成31年です。
その報告では、今まで(平成29年時点)で約7300人だった軍属が、約11000人となり、逆に4000人ほど増えてしまいました。
これに対し、鈴木外務省北米局長は衆院外務委員会(平成31年3月13日)で次のような答弁をしております。
これまでの報告では、たとえば基地内の売店、食堂に勤務する者の人数が含まれていなかった。しかし、これらの米軍関係者は軍属としてこれまでも取り扱われていた
この結果は、米側が同協定に基づき、軍属の適切な管理のための制度及び手続きを強化する作業を進めた結果であり、
これまで含まれていなかった米軍関係者も含むことによって、正確な情報を提供できることになった
と奇妙なことになんと前向きな評価をしているのです。
議員からの軍属8種類のカテゴリーの内訳を確認されると、
米側には総数だけを求めており、そうした情報を提供することは義務付けておりません
と回答。
まとめ
『軍属に関する補足協定』が締結されたことで、これまでは「後からでも軍属扱いできた」けど、そうはいかなくなったので、誰もかれも軍属として報告するようになった。
売店の従業員も軍属。総数だけを日本側に伝え、”誰がどのような理由で軍属に当たるのかなど、日本側に伝える義務はなく、米軍の専権事項なのだから口出しするな”と。
平成28年うるま市強姦殺人事件で沸騰した沖縄世論を鎮静化させるためだけの、パフォーマンス的な意味しかない『軍属に関する補足協定』。
軍属の数は限りなく増え続け、今後も米軍基地内で働くすべての米国人は、治外法権的な特権を享受することに。うるま市強姦殺人事件での問題点はまったく無視されてしまいました(了)。
60秒で読める!この記事の要約!(お忙しい方はここだけ)
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- 平成28年、沖縄うるま市強姦殺人事件発生。米軍人や軍属に対する治外法権の現状に対し、沖縄世論の怒りが再沸騰。鎮静化させるために『軍属に関する補足協定』が結ばれた。
- しかし、これは売店の店員も「軍属」(公務員扱い)にしてしまうもの。軍属とは、米軍が直接雇用し管理監督できるであり、刑事裁判権免除など米軍側が特権を与えることができる。米側にとってあまりに有利な協定であり、「公の目的」のため仕事をしていれば誰でも軍属と認めてしまう。
- 政府は「従来の運用改善とは一線を画する画期的な意義」と自賛するが、その軍属の認定主体は米軍にのみある。日本側は、疑義がある際の取り消し処分の権利はおろか、もちろんその軍属撤回要請も出来ない。米軍支配下の”作業部会”で一応の協議が行えるだけ。
- 事実、2年後の米側報告では軍属が減少するどころか、その人数が4000人以上も増えている。これまで「後からでも軍属扱い」出来た米側が、ともかく誰でも彼でも軍属に含めて報告した結果である。
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