外国人への生活保護支給を止められるか 地方議会と中央政府

政治改革
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地方議員による、政務調査費の不正受給問題。カラ出張で、政務調査費をだまし取り、詐欺罪に問われた元兵庫県議もおりました。

そんな地方議会でよく政策争点の一つになるのが外国人への生活保護。果たして地方議員、地方議会に外国人への生活保護支給をストップさせるだけの権限はあるのでしょうか。

地方自治法など法律からひもとき、地方議会(地方議員)の役割、機能を参照しながら外国人への生活保護支給に歯止めをかけられるのか。

そもそも国会でしか議論できない問題なのか。徹底検証していきます。

地方議員の現状

有権者の政治無関心が、一部の有権者のみ投票所に行き、特定の立候補者のみを当選させる。これが地方議員の堕落を生み、その堕落がまた有権者の政治無関心を呼び・・・

このような負のスパイラルに陥っている選挙区がほとんどです。

選挙区によっては無投票当選もあります。無投票当選とは、定員以下しか候補者がいないため、無投票で当選することです。

2019年は、なんと41都道府県において無投票当選。この負のスパイラルが地方政治腐敗を生んでいる理由。地方議員の現状はあまりにも暗い。

地方議員と条例制定権

地方議員が活躍できる法的制度はあるのでしょうか。日本国憲法第94条は地方自治体に条例制定権を与えています。

条例制定範囲は、当該地方公共団体が処理できる事務に限られているが、住民の基本権においてすら国の法律の授権・委任を必要とせず、その人権を制約できる。

たとえば、地方自治法第14条3項では、条例違反をしたものを2年以下の懲役もしくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留などに処することが可能。

ですが、憲法94条には「法律の範囲内」で条例制定ができるとされ、地方自治法第14条1項においても「法令に違反しない限りにおいて」とされています。法令とは、法律・政令・省令のこと。

よって、現行法上、処理できる事務に限って飲み、法律や命令の範囲内で条例を制定できるということです。

外国人への生活保護は各地方自治体が裁量をもって決めているわけですから、各自治体の議会が外国人への生活保護支給を対象外とする条例を作ればよいのでは?

問題点は、国の「法律の範囲内」をどう解釈するか、という点です。果たして外国人への生活保護支給を止められるのか。

外国人への生活保護支給VS地方議員

もし国の決定に従うだけで、地元の問題に主体的に取り組めないのであれば地方議員は不要です。

そもそも生活保護は日本国民においてのみ適用可能となるものです。

この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする

引用元:生活保護法第1条

ですが、現状、在日外国人にも適用を拡張しています。

本来は日本国民にのみ適用対象ですが、拡大解釈の根拠は行政通達にあります。具体的には、昭和29年5月8日付の各都道府県知事宛厚生省社会局長通知です。

生活保護法第1条により、外国人は法の適用対象とならないのであるが、当分の間、生活に困窮する外国人に対しては一般国民に対する生活保護の決定実施の取扱に準じて左の手続により必要と認める保護を行うこと。

引用元:昭和29年5月8日付の各都道府県知事宛厚生省社会局長通知

法令(法律)ではなく、当時の厚生省の行政通達(単なる行政方針)が唯一の根拠。つまり、外国人への生活保護支給は国の法律で認められた外国人の権利ではないのです。

地方政府は、中央への権限の集中体制を改めさせると同時に、権力分立体制による均衡/監視という機能をもたせることが理念としてあります。

「それは国が決めることですから。我々地方議員では何も出来ないんですよ」ということであれば、国会議員のみ存在すればよいことになります。

1999年の地方自治法大改正で何が変わった?

生活保護法を在日外国人にも適用すると定めた行政通達。地方議会は条例でもって乗り越えることができるのか。まず前提知識として1999年地方自治法の大改正を解説します。

改正前は機関委任事務というのがありました。地方は、国の委託事務であるという建前のもと、国が施行細目を通達で決め、地方の裁量をほとんど認めない形で運用。

改正により、機関委任事務が廃止。従来の機関委任事務は、自治事務と法定受託事務のいずれかに振り替えられました。

国の事務であるが、執行が法律により自治体に委託されるもの(法定受託事務)、自治体の事務であるが法律の規制を受けるもの(法定自治事務)、自治体が任意に行いうる事務(随意自治事務)という現在の分類が出来上がりました。

地方自治の原則に従い、自治体の権限が強まったかに見える法改正ですが、実際は国から地方に対しての発言権も担保されています。

具体的には、地方自治法第245条にて①助言又は勧告②資料提出の要求③是正要求④同意⑤許可、認可又は承認⑥指示⑦代執行⑧協議を挙げ、国は地方に対し一定の権限を行使しうる立場にあります。

もちろん、これら国の関与を行うには法律(または政令)による根拠が必要とされます。

関与の法定主義原則(245条の2)といい、かつその関与は「必要最小限度のもの」とし、自治体の「自主性及び自立性に配慮」することを要求しています(245条の3)。

地方自治体は国の関与にどうあらがうのか?4つの方法

外国人への生活保護支給をもし国の関与と考えると、地方自治体はどこまで抵抗できるのでしょうか。方法は4つあります。

①国の関与に不服がある場合は、国地方係争処理委員会に勧告を出せる(地方自治法第250条の13)。

もし国の関与が正当なものと認められても納得がいかない場合は、高等裁判所に国の行政庁を被告とし、違法な国の関与の取り消しを訴えることができます(251条の5)。

外国人への生活保護支給では、機関委任事務時代に出された行政通達に基づいて在日外国人への支給が行われています。

行政通達の法的位置づけは自治法245条に定められている国の自治体への関与であり、より細かく言うと245条の⑥指示にあたるのでしょうか。

もしそうであれば、自治体の長その他の執行機関は厚労省を相手方に、国地方係争処理委員会に審査の申し出を行えるという事です。

②全国的連合組織の届出・意見の申出(263条の3)を行う。

地方自治体の長、議長同士の連帯組織。地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関し、内閣又は国会に意見書を提出できる方法。

263条の3第4項に「内閣は、当該意見が地方公共団体に対し新たに事務又は負担を義務付けると認められる国の施策に関するものであるときは、これに遅滞なく回答する」とあります。国に明確な回答義務を求めています。

③条例で在日外国人への生活保護支給を不可とする。

法定受託事務(生活保護支給)でも法律の範囲内で条例を制定できます(14条第1項)。

条例は、法律に根拠を必要としない自主的立法。自治体の事務に関する限り法律と同じ扱い。憲法第94条の「法律の範囲内」とは合憲的な法律が存在する限り、条例はそれに反してはならないというだけ。

そもそも行政通達は法律ではない。外国人への生活保護支給を不可とする条例は作ってもよい。

法律の趣旨が自治体の実情に応じ、別段の規制を行うことを容認するものである場合、条例は法律に違反しないという見方もあります。

④地方自治法第15条に定められている「規則」で在日外国人への生活保護支給を禁止する。

第15条は「地方公共団体の長は、法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することが出来る」とあります。

行政通達は法令ではないので、もちろん法令に違反などしません。

住民の意思VS官僚の意思 地方議員は住民を代表できるか?

法規は上下の段階的構造をなしており、上位の法規は下位の法規に優越し、上位の法規に抵触する会の法規は効力をもたない。これを法の形式的効力の問題と言います。

法律の下に政令、省令があり、政令や省令は法律の細目を定める施行規則です。条例もまた法律の下に位置づけられています。

問題は、かつての機関委任事務時代の行政通達をどのように解釈するかという点。行政通達は、行政の運用方針。上級機関が下級機関に対して、法令の解釈等を通知するものです。

政令や省令よりも下位にある、単なる行政の運用方針である行政通達に関し、地方自治体の条例が乗り越えられるのかどうか。

もし外国人への生活保護支給を禁じる条例が作られたとき、地方住民の意思たる条例と、一昔前の官僚の意思の発動たる行政通達のどちらを優越すると考えるのでしょうか。

もし行政通達が優越するのであれば、地方自治など所詮は建て前であり、選挙で地元の人たちに選ばれた地方議員の価値など地に落ちます。たとえば大阪市では外国人への生活保護支給に異を唱え、却下しています。

中国籍の集団が入国後すぐに、生活保護申請をした事件。一度は支給を認めたものの、その後取り消しています。明らかに生活保護受給が目的の入国。市民の理解は得られにくく、また、4分の1の財政負担を余儀なくされる大阪市としても納得できるものではない。本来、法の準用の対象ではないと認められるため、生活保護法の準用を取消し、支給した保護費の返還を求めた。(参照元:大阪市HP”中国国籍の方の生活保護集団申請について”)

地方議員の能力不足は顕著

現状、外国人への生活保護支給を禁止する条例は作られておりません。国が決めることだという逃げの姿勢です。

地方自治体も一部財政負担を求められるというのに、大阪市のような例は極めてまれです。

国の法律に疑問を感じること、この政令や省令は誤っているのではないか。条例で是正できないかと考えるべきでしょう。

もちろん、外国人への生活保護支給だけではありません。〇〇業界に××の問題があって、業界内では自浄作用が働かないので、地方の条例で是正できないかという問題はたくさんあります。

そういう問題を見つけてきて「最終的には国と戦います。国の〇〇と言う法律は現場の問題を無視しています。条例でもって、あるいは国の関与が不適切なものだと訴えて是正して見せます」と、

これくらい言えないのであれば地方議員など不要です。すなわち、地方議会不要論です。

まとめ

地方議員は、条例制定権があり、独自の法律が作れます。また、国の誤った政策に対してもノーと撤回を求める能力も与えられております。

地方議会には、中央政府に対してのチェック・アンド・バランスとしての機能があります。

外国人への生活保護支給に関しても、1954年という半世紀前の行政通達はもはや効力を失っている。「当分の間は困窮外国人、特に朝鮮人に対し生活保護をする」という”当分の間”をもはや過ぎ去っているのではないか。

本来は国会に対して意見を言わなくてはいけません。がしかし、国会議員と地方議員の関係は実際のところずぶずぶです。国も地方も同じ政党から議員が立候補しています。

地方議員からスタートして、足場を固めて国政に出るのも一般的です。

もし地方議員の役割を地域の実情に応じた条例作成とし、国の法令の過ちを是正するという理念を地方議会に持たせるのであれば、現状のシステムではおよそ不可能。

地方議員が主体的に動き、国の法令に対して疑問を提起し、国と戦ってみせるというメカニズムは全く働いていません。

行政通達は法令ではありません。単なる行政方針(※それも”当分の間”の方針です)。地方自治体の条例によって十分に乗り越えられる可能性は高い。外国人への生活保護支給禁止条例をぜひとも地方議会に作成してほしいものです(了)。

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