横田めぐみ法案(北朝鮮拉致事特別措置法の私案)

政策争点
©いっせい

北朝鮮拉致事件解決に向けて、解決方法は2つあると思います。

①拉致被害者が日本に自由な意思のもとに帰国すること。②法整備等含めて再発防止策を講じること。

重大な事件・事故が起こった際は、今後に向けて再発防止策を取るのが自然な流れです。

刑事事件の場合は犯人を捕まえることが一番の犯罪予防。また、犯人をしかるべき量刑で逮捕する法整備を整える。再発防止策を講じることも必要。今回は②の方法、拉致事件に対する特別立法の私案を考えてみたいと思います。

法律名は「拉致等手段による強制失踪の処罰に関する法律(通称、横田めぐみ法案)」とします。

拉致等手段による強制失踪の処罰に関する法律(令和〇〇年法律第〇〇号)

第1条(目的) この法律は、国の機関又は国の許可、支援若しくは黙認を得て行動する個人若しくは団体による日本国にて在住する者の拉致等手段による強制失踪に伴う行為を罰することで、その強制失踪という極めて重大な基本的人権に反する行為をこの社会より撲滅し、果ては強制失踪の未然の防止又は強制失踪による被害者を家族のもとへ速やかに帰し、そして被害者が司法手続き及び賠償についての権利を有することを確認し、日本国での平穏かつ健全な社会生活の確保を達成することを目的とする。

第2条(定義) この法律において「強制失踪」とは、国の機関又は国の許可、支援若しくは黙認を得て行動する個人若しくは団体が行う逮捕、拘禁、拉致その他のあらゆる形態の自由の剥奪を伴う行為であって、その自由の剥奪を認めず、又はそれによる失踪者の消息若しくは所在を隠ぺいすることが伴われるもので、場合によってはその監禁されている数十年もの長期間のあいだ当該個人若しくは団体の管理の下で生活を余儀なくされ、かつ、強制労働に従事させられることもあり、失踪者の基本的人権を著しく侵害する行為をいう。②この法律において「拉致等手段」とは、脅迫、暴行または偽計的手段により、本人の同意を得ることなく、又は偽計に依る同意の錯誤状態を利用して、合法若しくは違法に日本国内外での実行者であるところの個人若しくは団体の管理下に置かれている船舶、飛行機、その他あらゆる施設へと連れ出す行為をいう。

第3条(強制疾走罪) 拉致等手段により強制失踪を実行した者は、死刑、無期懲役又は10年以上の懲役に処する。②強制失踪を共謀し、命じ、又は教唆した者も前項と同様に処する。③前2項の未遂は、罰する。

第4条 強制失踪対象者の選定作業を行い、その強制失踪犯罪計画に協力した者は、懲役3年以上15年以下の刑に処する。

第5条 強制失踪実行者に協力する目的で、犯行に使用する銃等の武器、船舶、飛行機若しくはその他あらゆる施設等を提供し、又は強制失踪の被害者の所有物などを隠ぺい若しくはその他犯罪捜査をかく乱する行為を行った者は、懲役3年以上15年以下の刑に処する。

第6条(刑の加重事由) 前3条の罪を犯し、よって人を死傷させた者はその刑を加重する。

第7条 失踪者がその強制失踪犯罪の加害者である個人若しくは団体の管理下にて、死亡若しくは精神的障害を負った場合は刑を加重することが出来る。失踪者が未成年、妊婦若しくは障害者その他特に立場の弱いもの(特に身寄りのない者、孤児院で育った者など)に該当する場合も同様とする。

第8条(刑の任意的軽減自由) 第3条から5条までの罪を犯した者で、失踪者の生還に効果的に貢献した者、他の犯罪実行者の特定など事件を明らかにした者、又は自首してきた者はその罪を軽減することが出来る。

第9条(国外犯) 第3条から5条までの罪は、刑法(明治40年法律第45号)第3条及び第4条の2の例に従う。

第10条(資産凍結措置) 強制失踪犯罪計画を共謀し、命じ、又は教唆した団体、及び直接の強制失踪実行者が所属し、犯罪に主体的に加担した団体に対し、国家公安委員会は、3年を超えない範囲内で期間を定めて資産凍結措置を採るものとする。その適用に当たっては、『国際連合安全保障理事会決議第1267号等を踏まえ我が国が実施する国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法』(平成26年法律第124号)を準用する。その際、「公告国際テロリスト」は「拉致等手段による強制失踪実行者、実行団体」と、「公衆等脅迫目的の犯罪行為」は「強制失踪行為」と読み替えるものとする。

第11条(資産凍結措置の延長) 国家公安委員会は、資産凍結措置の有効期間(この項の規定により延長された有効期間を含む。)が満了するときにおいて、当該措置を受けた団体が引き続き強制失踪犯罪を含む、不法若しくは非合法な工作活動に従事する合理的な疑いを持てる時は、3年を超えない範囲内で期間を定めてその有効期間を延長するものとする。

第12条(資産凍結措置の取消) 前条にて資産凍結をされた団体が解散又はその他の事由により消滅したときは、国家公安員会はその資産凍結措置を取り消すものとする。しかし、その当該団体の持つ資産を移転させたと認められる新団体が存在する場合、その団体に対して再指定をすることが妨げられるものではない。

第13条(団体活動の制限) 強制失踪犯罪計画を共謀し、命じ、又は教唆した団体、及び直接の強制失踪実行者が所属し、犯罪に主体的に加担した団体であり、今後も強制失踪犯罪を含む不法若しくは非合法活動を日本国内で実行する合理的な疑いがある時は、公安審査委員会は、『破壊活動防止法』(昭和27年法律第240号)を準用し、その団体活動を制限しなくてはならない。その際、「暴力主義的破壊活動」を「強制失踪犯罪を含む不法若しくは非合法的活動」と読み替えるものとする。

第14条(強制送還の指定) 法務大臣は、第3条から第5条までの罪を犯した者が外国人である場合は、他の法律の規定に関わらず、日本での刑期を終えたのち速やかに強制送還を命じなければならない。②前項の外国人は、永住者、特別永住者、日本人配偶者等、永住者の配偶者等若しくは定住者を含む。③そして、本条において強制送還された者は二度と日本への入国は拒否される。但し、法務大臣が認めた場合はこの限りではない。

第15条(帰化の取消) 第3条から5条までの罪を犯した者が、日本国に帰化した者である場合は、法務大臣はその帰化を取り消さなくてはならない。帰化が取り消され、日本での刑期を終えた際は、速やかに前条の処分を下すものとする。

第16条(時効) 本犯罪の時効は、犯罪行為が終了したとき、即ち失踪者が自由な意思のもとに日本国に帰国したとき、あるいは日本若しくは他国にて生活する家族、親類のもとに自由な意思のもとに帰国したときより開始される。

附則(施行期日)この法律は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

条文逐条解説及び今後の法案条文修正に関しての付言

第1条 強制失踪犯罪に対して普遍的管轄権を設定し、不処罰の禁止を徹底するという国際社会の大きな流れに則り、特に日本国民を被害者に限定するのではなく、「日本国にて在住する者」と失踪対象者の範囲を拡張した。多くの在日朝鮮人が日本国から不当に拉致されたことが想定され、そのような事件が広範に組織的に日本国内で行われることは著しく日本の治安を悪化させることだと認められるからである。よって、「日本国にて在住する者」という文言を使用した。

また「被害者が司法手続き及び賠償についての権利を有することを確認」と記載したが、わが国には既に拉致被害者支援法(平成14年)により一部その役目を担われている。しかし、本来であれば北朝鮮政府が賠償金を支払う義務がある。被害自国民(日本国民)による、加害他国政府(北朝鮮)に対する損害賠償請求を受理し、自国国家(日本政府)が当然代理人の立場で加害他国政府に賠償を求めることが筋である。

よって、被害者の他国政府への損害賠償請求を受理し、円滑に履行する義務を日本国政府に課すような条文を設けてもよいかもしれない。その点に関して、本法案では条文としての規定を今回は見送っている。

第2条 国連強制失踪条約と同様に「私人(私的集団)による強制失踪」を本条の定義から除外している。すなわち、国と何ら関わりを持たない私的集団の犯行は当該法の対象外。但し、国家と私的集団との間に支配命令の関係にある場合、または国家が私人の行為を自己のものとして是認したときは法の適用対象となる。朝鮮総連は法の適用対象となる。

強制失踪の定義を「長期間に亘って逮捕、監禁する行為」と定めるべきかと言う点に対しても議論がある。強制失踪の事実は身柄を逮捕、拘禁したときから発生するという理由により時間的要件の挿入に反対する主張も国連強制失踪条約の作業部会ではあり(北村泰三「国連強制失踪条約の意義及び問題点の検討」法學新報116〔3/4〕2009—09、p.183参照)、長期間が〇〇年間となるのかも不明瞭。

強制失踪は、組織的かつ系統的な企図の下で実行される傾向にあり、多数の人が犯罪の犯行に関わっていることが多く、最初に人の身柄を逮捕、拘禁又は拉致した者は、その後被害者がどのような扱いに直面するか知らされていないこともある。

また最初に身柄を拉致した者は、逮捕に関わっただけであるとか、短期間身柄を拉致する意図であったと主張すれば強制失踪による訴追を免れることも可能となる(同上、p.184)。よって、国連強制失踪条約では時間的要素を定義に含めないことにした。本条でも、時間的要件を必要的構成要件としては含めず、例示の書き方をしている。

第3条 本法律は日本が締結した国連強制失踪条約が各締約国に求める国内での訴追義務を履行するために特別立法を含め、刑事上必要な措置を求めていることを受けて作成したものである。その意味で国連強制失踪条約が処罰対象に挙げている者はカバーしなくてはならない。その国連強制失踪条約第6条で上官(superior)にも処罰対象を拡張しており、その上官の実質的な権限及び管理の下にある部下が強制失踪犯罪を行っており、若しくは行おうとしていることを知っており、又はこれらのことを明らかに示す情報を意識的に無視し、その実行を防止若しくは抑止することもせず、そしてその強制失踪犯罪に関係する活動について実質的な責任を有し、及び管理を行った場合、これら全てに合致する際は上官も処罰対象となる。つまりは、共謀・命令・教唆行為をしていなくとも処罰の対象になるという極めて広い処罰範囲を求めている。

現行法(刑法における未成年者拐取罪、監禁罪、所在国外移送目的拐取罪等。日本政府の立場は特別立法をしなくとも、国連強制失踪条約が締約国に求める処罰措置は上記の現行刑法で処罰できるという立場を公にしている)(同上、p.190)でも裁けない対象範囲である。

よって、第3条の2として、「実行者に対して実質的な権限及び管理をしている上官で、実行者が強制失踪犯罪を行った又は行おうとしていることを知っており、又はこれらのことを示す明確な情報を意識的に無視し、それらの行為を防止若しくは抑止することもせず、それら実行者の活動に責任を有し、かつ、管理していた者は、死刑、無期懲役又は7年以上の懲役に処する」と定めることも考えられる。今回の規定では条文制定を見送っている。

第4条 かつて旧社会党の人間が選定作業に関わったとの匿名の論文が某雑誌に記載されたことを受けて、この選定作業のみに一部日本人が関わったのではないかと疑惑が持たれた。これを受けて特に条文を一つ設けて処罰対象とすることにした。

第5条 直接の実行者とは別に、在日朝鮮人の協力員の中には被害者の所有物を実際に拉致された現場である海岸とは全く別の場所へと移送する者、又は何度も繰り返し被害者の家族のもとを訪れ「娘はオレと暮らしているのだ。拉致されたわけではないのだ」と虚言をついたりする者もいるのでそのような犯罪捜査をかく乱する行為を処罰対象とした。

他にも無言電話を掛けるなど被害者のご家族に対し心理的に圧力を掛ける行為も認められるが、それは規定の射程外にしている。失踪者のご家族も「被害者」と見なすのが国際社会の通例なので、ご家族も含めて「被害者」に対する嫌がらせ等の軽度のものから、加害者側による物理的手段を含む被害者への圧力行為を防止する処罰条文を設けてもよいのかもしれない。本法案では上記行為は規定していない。

第6~9条 略

第10条 本条は、具体的には朝鮮総連を核とする日本国内の在日朝鮮人を組織化した各種工作団体の資金凍結につなげることを目的に設けた。国際テロリストに対する金融制裁を定めた時限法(平成26年法律第124号)を準用するのは法執務的に複雑となるが、ここでは便宜的に準用した。拉致は個人的犯罪ではなく、組織的な重大犯罪である。個人のみを裁いても拉致事件の解決には程遠い。よって朝鮮総連を代表とする、日本国内で暗躍する北朝鮮の秘密工作組織など含めてその実態を表舞台にて追求するとともに資産凍結措置など団体の活動にメスを入れていかなくてはならない。

第11条 前条で資産凍結の対象となった団体が凍結対象期間を超えても非合法活動に従事している間は制裁の継続が必要と言える。よってその非合法活動を「強制失踪犯罪を含む、不法若しくは非合法な工作活動」と定め、資産凍結措置を延長する規定を設けた。

第12条 例えば朝鮮総連関係者が総連を解散し、別名の新団体を組織することは充分に認められる。よって、資産を移転させた新団体にも資金凍結対象とすることで、法の網の目が及ぶようにすることが求められる。

第13条 本条の規定が求められるのは、破防法を拉致工作団体にも準用させることである。第10条の資金凍結措置と合わせて、朝鮮総連を主体とする在日朝鮮人の非合法ネットワークの活動を徹底的に抑え込むのが狙いである。

第14条 通常、外国人は単純な窃盗罪でも強制送還の対象。二度と日本に入国できないのがルールである。その例外は特別永住者である在日朝鮮人で、彼らは重大な殺人事件を犯して無期懲役を適用されたとしても、それが内乱罪や外観誘致罪でない限りは強制送還されないという特権がある。この特権を拉致犯罪に対しては認めないという規定。拉致事件を犯した人物を国内に留まらせることは日本国の治安を非常に悪化させる大問題であろう。韓国政府との特別永住者制度の見直しも含めて再考が求められる。

第15条 帰化申請の窓口は申請者の住所を管轄する法務局であり、帰化要件は国籍法第5条に定められている。第5条には思想要件(5-1-6)もあり、これは政府を暴力で破壊することを企て若しくは主張し、又は企てを主張する政党・団体の結成若しくは加入したことがないことが求められる。しかし、帰化許可後に、帰化条件に背くことが判明した場合があっても帰化を取り消す法的根拠は現在設けられていない。帰化条件に背反した帰化許可の処分庁による取消は、一般行政法の法理に従い、瑕疵の程度、取消の公益上の必要性と被処分者の不利益との比較考量などを考慮し、法相が取り消すこともありうるのだろうが、過去に前例がない。法的根拠が明文で記載されていないため、

よって、この第15条において「帰化取消」を定める意義は大きい。あるいは、国籍法の一部改正により包括的な帰化取消要件を定めるというアプローチもある。第14条の強制送還の実施と併せて、現在在日朝鮮人に対する優遇差別とも言える特別永住者制度の改廃も含めて、日本国の治安の改善へとつながる措置となろう。

第16条 被害者の中には日本人ではなく、外国籍の者も多い(例えば、在日朝鮮人等)。強制失踪は国際犯罪であり、日本人に限らず外国人も多く被害者となっている。日本で拉致された外国人が今後も日本での生活を求めるかは定かではなく、その点を考慮して「日本若しくは他国に住む家族、親類の下に帰国」という文言を付け加えた。また「自由な意思のもとに」という文言は、寺越武志さんのように北朝鮮の監視付きの下で日本に帰国している者が認められるからである。寺越さん事件の時効を発生させないためにこの文言を付加した。

本条では監禁罪に認められる継続犯としての性質、つまり被害者の身柄が解放されたときが犯罪終了時点であり、それから時効が始まるという理論を採用した。その際、「自由な意思のもとに」という文言を追加的に付加することにした。果たして時効をなくすべきか、一般の国際条約の流れを受けて犯罪終止を“消息及び所在の判明”とするか、本条文のように規定するか、この三つの選択肢がある。

おわりに:北朝鮮拉致事件の異質性と今後の方向性

日本も採択している国連強制失踪条約は被害者の消息の判明、または真実の判明に力点が置かれています。

さきがけは、国際社会初の強制失踪条約となった米州条約。1970年代~1980年代にかけての南米での軍事独裁左派政権による自国民の知識人、反政府活動家の不当な拉致、拘束及び捜索の拒否、消息の不明が問題となったことが契機にあります。

消息の判明に注目する理由は、自国政府による不当な拉致、拘束、又はそれに伴う犯罪捜査の拒否等に代表される政府機関による隠ぺい行為が最も問題とされたことがその背景にあります。よって、国連強制失踪条約第24条では被害者(特にその家族)が真実を知る権利及び保障を受ける権利を具体的に定めています。

自国内での和解を促す措置です。真実さえ知ることが出来れば、これは自国民同士のことだから、「今後の自国の将来に向けて和解しましょう」となります。よって、消息の判明=真実を知ることそのものが問題解決に大きく寄与することになります。

また一方で、国際人道法においても強制失踪犯罪は扱われており、これは戦時において他国民を拉致し拘束することがしばしば発生するからです。

平時における他国民拉致による強制失踪犯罪は国際社会で全く異質の事件であり、国連強制失踪条約の想定外の事態です。その点、北朝鮮拉致事件は国際的にも非常に珍しい事件。

北朝鮮政府が「我が国の国家政策の遂行のために日本国民は犠牲にならなくてはならない」といくら説明しても、北朝鮮政府と日本国民の間で和解は成立しないでしょう。

南米で起こった強制失踪とは異なり、事件の真相を明らかにしたところで自国政府が自国民を拉致したわけではないのだから、まったく和解には至らない。そもそも自国内でのもめごとではないからです。

極めて異質な北朝鮮拉致事件の解決には、特別立法が不可欠であると考えます。日本国内であらゆる非合法活動を行って日本国の治安を著しく乱している、朝鮮総連をはじめとする一部の在日朝鮮人の摘発をしなくてはいけません。

日本国の治安回復のためにも、特別立法案が議論の俎上に載り、国会での法案通過とそれに伴う拉致事件の加害者及び他国の諜報員・工作員の摘発を断固たる覚悟で実施すべきと考えます(了)。

※北朝鮮拉致事件に対する、メディアや政府の対応など、時系列にまとめられている一冊が「拉致 北朝鮮の国家犯罪 」(講談社文庫)です。横田めぐみさん拉致事件も丁寧に解説。改めて拉致事件の情報整理をされたい方にもぜひオススメです。

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