「汚職議員ばかりだし、地方議会などなくなってほしい」
このように市民から見放されているのが、現在の地方議会ではないでしょうか。
しかし、世界の学者から全世界の選挙システムとは異なる、かなり珍しい選挙制度であると注目(?)されているんです。
いわずもがな、地方議員選挙は、中選挙区制を採用しております。
が、選挙制度もそうですが、その地方政府の制度設計もまた珍しいんです。ただ世界的に珍しいというだけで、諸外国も真似しようとしているわけでは決してありません。
中選挙区制とはいったいどのような選挙制度で、メリットや問題点はどこにあるのでしょうか!?
この記事では、政治初心者向けの方をターゲットに、高校生の方でもわかりやすく解説しております。
※また地方議会に不信感を持たれている方にもおすすめ!地方議会を腐敗させている原因のひとつに選挙制度の問題もあります。ぜひご一読いただければ幸いです。
政治家が常に激論をかわす選挙制度!?なにがそんなに大事?
選挙制度は、政治を語るうえでもっとも重要な争点のひとつです。
政治家もつねに選挙制度について激しく議論しています。
20世紀を代表する哲学者のオルテガは、
選挙制度が適切なら何もかもうまいくいく。そうでなければ何もかもダメになる
という格言を残しております。
確かに選挙制度のみですべてを語るのは単純すぎるでしょう。しかし、選挙制度が議会運営/政治制度全般に与える影響は決して少なくありません。
選挙制度改革が常に政党間で熾烈な争いになることも事実。また、選挙制度により各政党の当選者数が変動するのも事実です。
参院選のたびに、野党の選挙協力が話題になるのもその選挙制度に原因があります。
※小選挙区制、比例代表制など、国会の選挙制度に関してはぜひ次の記事もご参照ください。

だからこそ、日本では”党利党略”が優先し、各政党の妥協的な産物として現在の選挙制度が生まれました。やたら長い名前である、小選挙区比例代表並立制もそのひとつです。
地方議会が目指すのはどのような議会!?中選挙区制を検討する前に…
日本の政治学者・加藤秀治郎氏は、
選挙制度の議論の前にその政治制度(ex.衆議院等)の果たす役割や機能に注目し、どのようなことが達成されるべきであるかを考えなくてはいけない
と述べております(加藤秀治郎『選挙制度の思想と理論』/『日本の選挙』他)。
ようするに、地方議会がどのような役割を担い、何を目指しているのか、その議論をしなくては適切な選挙制度を考えることができないということです。
いいかげんに選挙制度を考えれば、いいかげんな地方議会ができあがるということです。
地方議会の現状をみると、優秀な地方議会、地方政府というのは聞いたことがありません。
借金をふくれあがらせ、破綻寸前の地方政府。国からの給付金頼みで、そのお金でさえいいかげんに使用して問題になる地方政府もあります。もちろん地方議会もそれを助長しているのです。
地方政府と地方議会がいっしょになり、地方自治を担っていかなくてはいけません。ですが、現状はまったくそうなっておりません。これは地方議会が何を目指すのか、その理念さえはっきりしていない証拠でしょう。
2014年、政務活動費約300万円を使い、年195回もの城崎温泉などへの日帰り出張を繰り返した議員もおりました。記者会見で号泣し、「世の中を変えたい!その一心で、一生懸命訴えて政治家になったんです」と元兵庫県議・野々村竜太郎氏の釈明会見はいまも有名です。
しかし、これは氷山の一角です。野々村氏は「やりすぎた」だけです。
野々村氏の「世の中を変えたい!その一心で…」という言葉は、地方議会の目指すものがなんなのか、私たち有権者も含め、
地方議員でさえもまったく理解していないということを教えてくれました。
またその結果、出来上がっているのが中選挙区制という選挙制度です。
にわとりが先か、卵が先かという話になりますが、なんの理念も持たない地方議会に、素晴らしい理念をもった選挙制度が果たして存在しえるのでしょうか。
ではいったい、この中選挙区制とはどのような制度なのでしょうか!?
日本的制度ジャパニーズ・システムと嘲笑の対象となっている地方選挙制度(中選挙区制)
中選挙区制という制度は、世界で日本にしかなく、欧米の学者からは”日本的制度”と奇異なものとして語られております。
小中学校の教科書でいえば、コラム的な扱いです。
テキストの基本的な項目では位置づけられない、「なにか変なもの」扱いをされております。
この中選挙区制も地方議員の質を低下させる主要な構造的な問題の一つです。
中選挙区制とは、大○○区であり、○記かつ○移譲制・・・?
中選挙区制は、1994年に小選挙区比例代表並立制(現行制度)が導入される以前は、国政でも採用されておりました。
中選挙区制をあえて一つずつ説明すれば、大選挙区制で単記・非移譲式選挙制度とも言えます。
ひとつずつ具体的に説明しますと、
まず、大選挙区とは一つの選挙区で複数名当選者が存在すること。
単記とは、複数定数のところ、1人しか記入させないこと。たとえば、○○区からは8名が当選する場合、有権者1人が8名を選ぶことが出来ません。候補者1名の名前しか書けないということです。これは世界的に見て、決して当たり前ではないのです。
そして、非移譲とは、同一政党で得たよぶんな得票数を他の同一政党の候補者に移譲しないこと(回さないこと)です。
中選挙区制の問題点 死票(無駄になる票)が多く、金権政治を助長!?
大選挙区制や単記制など一つ一つの制度は他の国にもみられるのですが、
大選挙区・単記・非移譲を組み合わせた選挙制度が他の国には存在しないのです。閑な学者が考えたこともないような制度なのです。
大選挙区・単記までならいいのですが、その上に非移譲制が付け加わるんです。
この非移譲制でいう、よぶんな得票数について説明します。
まず有効投票数を議席数で割った値が当選基準です。つまり、議席数が10で有効投票数が1万だとすれば、当選基準は1000票となります。
○○党のAさんはダントツ人気で3000票取りました。となれば、その2000票を同じ〇〇党のBさん(700票獲得)やCさん(300票獲得)に振り分けましょう、ということです。
そうすれば〇〇党のAさんが獲得した2000票はムダにならないということですね。
しかし、中選挙区制は非移譲制なので、Aさんの獲得した余分な2000票が死票になってしまいます。
この中選挙区制の最大のデメリットは、日本の政治家をカネまみれのサービス競争に終始させました。
なぜ議員さんは有権者にキャバクラやクラブ、飲み会などで大盤振る舞いをするのか、その理由が実はこの選挙制度にあります。
おカネをばらまくことが最も大切な「政治活動」|中選挙区制の弊害
ある自民党の地方議員は、
実は自分と同選挙区の自民党議員さんよりも、共産党議員さんのほうが仲がいいんだ
と言っております。それはどういうことでしょうか?自民党と共産党はまったく相反する政治理念を持っているはずですよね。しかし、これは本当の話です。
同じ政党の候補者がライバルとなる不思議な選挙制度
中選挙区制では、小選挙区と違って政党・政策本位での選挙とは到底なりえません。
なぜなら、複数名の当選者(大選挙区制)が出るのですから、同一政党からも複数名立候補するからです。
となれば、○○党からも複数名候補者が立候補し、○○党支持者の方は1票しか投票(単記式)できなくなります。
また、同一政党の1人の候補者が取り過ぎた余分な得票を他の同一政党候補者に回せない(非移譲式)ので、同一政党だからこそ有権者の奪い合いになるのです。
つまり、「〇〇党のAさんではなくて、同じ○○党の私(B)にいれてください」と地元の有権者の方にお願いすることになります。
クラブの飲み会など接待費で飛んでいくお金が多い(現職地方議員の話)
このように、中選挙区制は他政党の候補者よりも、同一政党の候補者の方がライバルになるわけです。
先の例でいえば、〇〇党の支持者の方はAさんでもBさんでもどっちでもいいわけなのです。
となれば、政策を競う政党本位の選挙とはならず、候補者個人がおカネを大量に使って選挙運動をするしかありません。
私の知人の地方議員の一人は次のように語ります。
確かに給料(歳費)も高いけど、地元有権者の方の冠婚葬祭での出費、クラブでの飲み会の接待費など飛んでいくお金も多い。そんなに残るものではない。カネはあればあるだけいいんだ
とのことです。
地元有権者にふんだんにおカネをばらまかなくては当選しない中選挙区制の実態をものの見事に表現してくれております。
まとめ
結論として、
中選挙区制という地方議会の選挙制度は、同一政党の候補者間で争わなくてはならない。
よって、政策本位では語れず、おカネをばらまくことで他の候補者との違いを見せるしかないのです。
キャバクラやクラブでの接待費/交際費に使用するために政務活動費を不正受給していたとして、
逮捕される地方議員が後を絶たない理由も実はここにあります。
おカネをばらまくことが、彼ら地方議員の最も重要な”政治活動”なのです。
逮捕されて職を失った議員とそうでない議員の差は、その線引きを「上手く行えなかった」議員と、「上手くやっている」議員の違いといったところでしょうか。
もちろん有権者にお金をばらまくことを奨励する選挙制度に民主主義的な価値など何一つありません。
ですので、現在の中選挙区制というなんの民主主義的な理念も欠如した、問題だらけの選挙制度。
この中選挙区制を今後も採用し続ける限り、地方議員の質の向上は望めないということです。
すなわち、地方議員が腐敗する理由の一つは、中選挙区制という選挙制度にあります。
彼ら地方議員にとって最も大切なことは選挙に当選することなので、選挙制度の与える影響はものすごく大きいのです。
唯一の中選挙区制のメリットは、有権者と「親密」な関係を築いた地方議員にとっては、受かりやすい選挙ということでしょうか。
ともかく腐敗した議員の拡大は、有権者の更なる地方政府/地方政治の無関心へと・・・そんな負のスパイラルが今後も続くのではないでしょうか(了)。
※地方議会に関してはぜひこちらの記事もお読みください。


60秒で読める!この記事の要約!(お忙しい方はここだけ )
- 「選挙制度が適切なら何もかもうまいくいく。そうでなければ何もかもダメになる」というオルテガの格言通り、選挙制度が政治制度に与える影響は大きい
- 選挙制度の前に、地方議会の担う役割・機能に注目すると、2014年元兵庫県議・野々村竜太郎氏の釈明会見での号泣。「世の中を変えたい!その一心で・・・」野々村氏は300万の政務活動費を私的な旅行に使いこみました。地方議員でさえも、地方議会の理念を理解していない。そして、中選挙区制というこれまた何の意義も見当たらない選挙制度が乗っかっている
- 中選挙区制は欧米の学者からは嘲笑の的。欧米ではそもそも導入はおろか議論の対象にもなっておらず、該当する専門用語もない。だから「日本的制度」と揶揄される
- 中選挙区制をあえて定義すれば、それは大選挙区制で単記・非移譲式選挙制度であり、同一政党で同士討ちをさせ、おカネを地元有権者にばらまくことが唯一の「政治活動」とさせる。これは当然、地方議員を腐敗させ、有権者の地方政治無関心を助長させるという負のスパイラルをうむ・・・メリットはひとつもなく、問題点しかない
※地方議会そのものに関し、関心をお持ちの方はこちらの書籍がおすすめです。
コメント