「地方議会はいらない!地方議員の給料は、生活困窮世帯などに回したほうがよいのではないか」
地方議会に対する国民の率直な感想です。
政務活動費の不正受給問題をはじめ、首長や議員の質の低さ。知事が市職員に対し、パワハラ暴言を行って話題になった事件も。
ですが、地方議会の低迷ぶりは、上記の政治家個人の資質の問題のみならず、構造的な問題もあります。
はたして、本当に地方議会や地方議員はいらないのでしょうか。
この記事では、地方議会の制度設計や地方自治法、政務活動費の実際にも注目し、地方議会不要論を検証していきたいと思います。
日本の地方政府 変形二元代表制
日本の政治制度は、国政、地方政治含めて、民主主義的理念が何一つ見えてきません。民主主義的理念とは、「この政治制度はいったい何を目指しているのか」ということです。
この点も地方議会不要論を生む原因のひとつです。
日本国憲法が混迷する地方議会を生み出した
日本の地方選挙では、地方議員のみならず、首長でさえ有権者が直接選挙で選びます。
国政では、国会議員が総理大臣を選ぶので、地方議会と国会は全く異なる政治制度です。
国政と違った、地方政府の制度を二元代表制と呼ばれます。
アメリカの大統領制と同じです。しかし、日本の場合は議院内閣制の要素もつけ加えております。たとえば、不信任決議をされたときの、首長による議会の解散などです。
大統領的首長制又は変形型二元代表制と言われます。世界的にかなり珍しい制度。
地方政府に関しては、米国が作った日本国憲法が産みの親ですが、米軍はそこまでしっかり制度設計をしなかった。このかなり珍しい制度の背景には、そのような事情があります。とはいえ、どんな民主主義的価値観を目指しているのかまったく不明です。
大統領制なのに不信任決議 混迷を極める地方政治
大統領制であるにもかかわらず、議院内閣制の機能である「議会の首長に対する不信任決議権」を認めています。
一方、首長にも「議会の解散権」を認めており、これは地方自治法第178条に記載があります。一般的な大統領制(二元代表制)ではこういう制度はありえません。
有権者が直接首長を選ぶことの意義は、議会(立法府)とは独立し、強固な行政権の行使が可能となるからです。安定し、効率的に機能した行政府の仕事を行えるようにという理念に尽きます。
にもかかわらず、不信任決議を立法府に認める。また、地方自治法第178条第2,3項の規定を読めば、首長が一度不信任決議を受け、その場で解散した場合、地方議員選挙が行われます。
その後、また再結集した議会で再び不信任決議が通れば、首長は自動的に失職するという内容です。いったいこの制度はどういう政治的なメリットがあるのでしょうか。
まったくなにを目指しているのか、民主主義的な理念が見えてこない制度です。
地方議会で「不信任決議」が可決されることもある!?
厳密な議院内閣制では、「不信任決議権の可決」はありえません。議会の多数派から首長を選ぶのですから。日本の国会で考えると、自民党(与党)が分裂しない限りは、国会で首相の不信任決議は通りません。
しかし、首長を有権者が直接選ぶ地方議会では、起こりえないわけではありません。
首長と地方議員がそれぞれ別々に選ばれるのですから。ここに首長と地方議会の奇妙な癒着構造。すなわち、なれあいが生まれます。これも地方議会を腐敗させる要因のひとつです。
”3ない議会”と揶揄される地方議会
地方議会を揶揄する言葉に「3ない議会」があります。フリーパス議会とも。地方議員の実態をよく表している言葉です。
「3ない議会」とは、①修正しない②提案しない③公開しない、議会のことを指します。ようするに、行政府(首長)から提案された議案を修正せず、自ら議案の提案もしない。情報公開もしない議会を指します。
首長の言いなりになる地方議会
本来、大統領制では100%議員立法なのですが、日本の地方政府は行政府(首長)にも法案提出権が与えられております。2011年の神奈川県の市町村議会では、首長提出法案を全体の99%原案可決していることが新聞記事となりました(読売新聞/2011年4月20日(水)/朝刊)。議員のインタビューも一部掲載されており、
市と政策について時間をかけて議論しており、市長が提案する議案には、我々の意見が既に反映されていることが多い
と語る一方で、この議論は議場外で行われるため、「市民から疑問に思われても仕方がない」とも。他には、
我々は市長追随の議会だったことを反省せざるを得ない
と話す議員もおりました。この記事で法政大の広瀬克哉教授は、
99%という原案可決は全国平均とほぼ同じ。否決があっても、首長と対立する議会の嫌がらせに近い場合が多い
と述べております。地方議会は、首長のいいなりになってきたといっても過言ではない。要するに、行政府の監視機能としての立法府、地方議会というものは存在しないということです。
法案を作らない議員に存在価値などない
地方議会、すなわち立法府の仕事はもちろん法案を作ることです。
たとえば地方自治法第96条第1項では、
普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
一 条例を設け又は改廃すること 二 ~(以下略)とあります。地方自治法第112条においても議員の議案提出権が規定されております。
野球選手であるのに野球をしない、サッカー選手であるのにサッカーをしないのであれば、だれも球場やグラウンドに試合を観に行かないでしょう。
議員にとっては、法案を作成/修正することですが、まったくしません。法律を提案しない、作らないことは議員にとって自らの存在意義を否定する行為です。これでは、有権者が投票に無関心となるのは、きわめて自然です。
”野球選手であるのに野球をせず、球場でも当然試合は行われない”のに、どうしてチケットを購入して球場にいくのでしょうか。このように考えると、地方議会不要論はかなり説得力のある主張となります。
地方議員の専門的能力を高めればいい
地方議会での議員提案の法律(条令)も数は少ないですが、存在はします。しかし、その議員提案のほとんどが意見書や決議、議員定数など議会内部の規定の変更です。
意見書とは、地方自治法第99条にて記載があり、自治体内部の問題に関し意見書を国会又は関係行政庁に提出することができるものです。これも特に政策的な立案ではまったくありません。
これら意見書・決議は単なる”意見”であり、なんら法的拘束力はありません。純粋な立法活動といえません。
裏返せば、現在の地方議員に政策立案する能力がないということです。ならば専門的な能力を身につけてもらうためのシステムを作ればいいということになります。
政務活動費を悪用する地方議員
地方議員の専門的能力を高めようという考え方に基づき、すでに政務活動費が議員に支給されております。
政務活動費は地方自治法第100条第13項に規定があり、政策調査研究などの活動のため、支給される経費とあります。
ところが、2016年7月23日に有罪判決が確定した元兵庫県議野々村竜太郎事件が発生。嘘の収支報告書を提出し、なんと政務活動費を936万円だまし取り、詐欺罪に問われました。彼は計344回にもわたり東京や城崎温泉など日帰り出張を繰り返し、政務活動費を遊興費に使用しておりました。
また、政治短大の会費や選挙向けチラシと言った不適切な利用をする議員も後を絶ちません。彼ら地方議員の歳費は、一般の民間人のお給料よりもはるかに高額です。
その歳費から政策の勉強に関する費用等いくらでもねん出すればよいのです。政務活動費は、次の選挙戦のため、地元有権者の方の冠婚葬祭費用、飲み会代、はてはキャバクラやクラブでの接待費と言ったものに使われているのが実情。
※政務活動費の不正受給は、もちろん野々村元県議員だけではありません。2022年にもまた同じような事件が起こっており、まったく地方議員の体質は変わっておりません。
お金も時間もある。ただやる気がない地方議員のあきれた実態
政策立案能力を身ににつける費用は、政務活動費含め、充分すぎるほど議員に与えられています。4年間はその地位が保たれ、地方議会の登院日数も都道府県議で年間約100日、市議で約70日ほどです。
もちろん議場外でも議員の仕事はあるでしょうが、勉強する時間は充分にあるといえる。ただ地元有権者との飲み会やキャバクラ、クラブ接待などに税金を使い、時間とお金を無駄にすることさえ止めればいいだけです。
まとめ
日本の地方議会は、変形型二元代表制という世界的に見て珍しい制度。行政府(首長側)も法案を作れるため、地方議員は首長に法案作りを丸投げし、何もしないという現象が発生しています。
議員は勉強する時間もお金も充分に与えられています。しかし、実態は地元有権者とのキャバクラやクラブで時間やお金を使うことに専念しております。次回の選挙で勝つためには、そうやって接待をしなくてはいけないのだと。
ですが、地方議員の本来の役割は法案を作ることです。しかし、まったくその職責を果たしておりません。地方議員をプロ野球選手に例えると、”プロ野球選手であるのに野球をしない。球場で試合もしない。ましてや、野球の技術を高めることもしないし、高める気もまったくない”ということになります。
この現状を変えない限り、私たち有権者は今後も地方選挙にいかないですし、地方政治/政府に関心をもつこともないでしょう。やはり地方議会不要論が出てくるのは当然かもしれません(了)。
※地方議会不要論に関してはぜひこちらの記事もご参照ください。
補足:地方議会不要論の実際の手続きに関して
地方議会を廃止するには、現行憲法第93条の改正が必要となります。
地方議会を存続させる場合、選挙ではなく非公選にするやり方もあります。ですが、これも日本国憲法第93条第2項の改正が必要となります。じつは、やりたい放題の地方議員を守る鉄壁のとりでは、日本国憲法にあります。
第93条第2項 地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する
60秒で読める!この記事の要約!(お忙しい方はここだけ)
- 地方選挙の形骸化が叫ばれて久しい。首長や議員の質の低さもあるが、民主主義的な理念の欠如など構造的な問題も認められる。
- 日本の地方政府は、大統領制でありながら議院内閣制の要素も組み合わせた、変形二元代表制という世界的に見ても珍しい政治制度。権力分立機能も不明確で、何を目指しているのか、地方議員さえも答えられない。
- 地方議会は3ない議会(フリーパス議会)、首長の提出議案を修正しない/自ら法案を提案しない/情報公開しないという、何もしない議会(立法府)と揶揄されている。
- 立法府でありながら法案を作らないという矛盾。地方議員の役割を放棄しているのが実情。給与形態にも大きな問題。高額な歳費(給料)の他に、第二の給料といわれる政務活動費も支払われている。本来の目的は、専門能力を高めるために使われるもの。しかし、遊興費など悪用する議員がほとんどである。”地方議会不要論”が主張されるのは当然。
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