グレーゾーン事態に対処できない海自と海保 日本の領域警備は抜け穴だらけ!?

政策争点
写真はイメージ ©安西成文

「日本の海上警備は抜け穴だらけ。不法漁業もやりたい放題。北朝鮮の工作船も入り放題だ」とよく言われます。

日本は、国土面積は狭い一方で、海岸線の世界ランキング6位。当然、それだけ守備範囲も広くなります。北朝鮮の工作員らも海から日本に侵入しやすく、

日本は、これら外敵を水際で撃退することを第一に考えなくてはいけません。しかし、日本の領海での領域警備は抜け穴だらけ。

領域警備は、他国では軍隊がその任務を担うことが通常です。領空も領海も軍隊が守るのは当然ですね。日本でも、自衛隊の艦船やヘリが不審船をよく発見しています。

ですが、日本では自衛隊が領域警備任務を担っておりません。自衛隊は不審船を発見しても、海上保安庁に連絡するのみ。

半日か、一日がかりで保安庁の巡視船がやってくる。そういうケースもよくあります。

なぜ自衛隊にその場で対処させないのでしょうか?

北朝鮮の不審船は高度な武装をしており、海上保安庁の装備では完全に優位を取れないことも予想されます。

北朝鮮拉致被害者もそうですが、暴力団による海上での密輸など犯罪行為を含め、海上での領域警備は急務です。

この記事では、海上警備における日本の置かれている危険な状況、問題点を整理してみたいと思います。また、グレーゾーン事態についてもわかりやすく解説していきます。

海上保安庁には国土防衛任務がそもそもない・・・

現在、海上の領域警備は、海上保安庁の担当とされています。

しかし、法的にその任務を与えられておりません。海上保安庁の役割が記載された、海上保安庁法第2条にも領域警備という任務は記載されていません。

記載されているのは、海難救助、海上での犯罪行為の予防くらいです。

※海上保安庁法第2条を下記に記載します。

第二条 海上保安庁は、法令の海上における励行、海難救助、海洋汚染等の防止、海上における船舶の航行の秩序の維持、海上における犯罪の予防及び鎮圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、海上における船舶交通に関する規制、水路、航路標識に関する事務その他海上の安全の確保に関する事務並びにこれらに附帯する事項に関する事務を行うことにより、海上の安全及び治安の確保を図ることを任務とする

領海や離島の警備は国土防衛任務であり、海上保安庁は国土防衛任務を与えられていません。

与えられているのは唯一自衛隊のみでしょう。また海上保安庁とは、海の警察官であり、日本という国家の法執行機関なのです。

つまり、海保が取り締まれるのは、日本の国内法が及ぶ領域や対象に対してのみ。

日本の民間人、または日本の統治下で犯罪行為を犯した外国民間人のみに対して取り締まることができます。

そもそも、日本の国内法が適用されない外国の公船や軍艦に対してはなにも出来ません。外国との関係では国際法がいわゆる取締法規となるからです。

よって、海上保安庁は領域警備において十分に取り締まる資格がないのです。海上保安庁法に規定がないのはそのためです。

軽武装の海保の船では、北朝鮮の不審船にも対抗できない

現在、尖閣諸島を中国が強引に領有権を主張しております。

中国の海警(日本の海上保安庁)の大型船含め、中国の民間漁船も侵入してきております。

しかし、海上保安庁は中国船に対し警告のみ。実質、なにも出来ておりません。これはかなり危険な状態です。

中国の民間漁船も、北朝鮮の不審船のように、軍事的な能力を持ち、特殊訓練を受けた工作員や軍の特殊部隊が乗り込んでいるかもしれないのです。

そんな相手が何者であるかもわからない状況で、満足な権限すら与えられていない軽装備の海上保安庁の船に取り締まりに向かわせることがはたして正しいのでしょうか。

海保を軍隊とすべきか?自衛隊に対処させるべきか?

一般的に、相手が軍事能力を持っているという最悪のシナリオをはじめから想定し、軍による対処を基本とすべきです。

要するに、海上警察である海上保安庁の巡視船は能力的に難しいということです。

海上保安庁を軍隊並みの装備にするのも一つ。しかし、海上保安庁法第25条には次のように規定されております。

第25条 この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない

海保の装備を軍隊並みにするには法律を変える必要があります。あるいは、国土防衛任務という性格から自衛隊に任せるべきでしょうか。

政府の回答は両者が連携して対処するということですが、現状のままではどちらも中途半端です。

自衛隊艦船でもグレーゾーン事態は対応できない!?

海上保安庁に対処できない事態。すなわち、グレーゾーン事態を思い浮かべる方が多いかもしれません。

グレーゾーン事態とは、武力攻撃に至らない侵害とか、警察力の対処能力を超える侵害。

あるいは、警察力による対処の限界を超えるものの、防衛出動に至らない事案といわれております。

武力攻撃(Armed Attack)とは、国連憲章第51条に定められているものです。

第51条 この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない

国連憲章第51条を自衛権行使条件とし、武力攻撃発生により防衛出動(武力行使)を発令できる、と日本政府は解釈しております。

しかし、国連憲章第51条には幾通りもの法解釈があります。実際には、自衛権行使は武力攻撃に限らないのですが、日本ではほとんど議論されないのは残念なところです。

グレーゾーン事態には自衛隊を対処させるというのがひとつの結論なのですが、1999年の能登半島沖不審船事件ではまったく機能しませんでした。

自衛隊にグレーゾーン事態を収拾させるだけの権限が与えられていないからです。諸外国では、グレーゾーン事態などそもそも起こりません。日本と違い、自衛権行使の範囲を狭くとらえていないので、普通に自衛権行使で対応します。

※グレーゾーン事態など、世界の物笑いの種です。日本以外の諸外国は、軍隊による自衛権行使で済む話。自衛権行使を非常に狭くとらえている、戦後日本のみに起きている現象です。

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自衛隊は警告射撃が海保の巡視船より派手なだけ

海保で取り締まれない場合、自衛隊に応援が要請され、自衛隊法第82条に基づく海上警備行動が発令されます。

能登半島沖不審船事件では、その海上警備行動が史上初めて発令され、自衛隊が不審船を追いかけることになりました。

しかし、残念ながら取り逃がしてしまいました。その理由は交戦規程(ROE)が不明瞭であったこと。

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また海上警備行動における自衛隊の武器使用が警察権限の範囲を超えていなかったことにあります。

自衛隊は海保同様の武器使用の権限。つまり正当防衛や緊急避難でしか相手に対して危害を加えることが許されておらず、海保の巡視船と違い、不審船に追いつけたものの、追いついてからどうすることも出来ませんでした。

対潜哨戒機による警告爆撃を行うなど、警告の与え方も巡視船より派手、、、、、、、、、、、、、、でしたが、中身がともなっていなかったのです。

現状では自衛隊に武装漁船などの不審船対処を含む領域警備をさせることも難しかったのです。

まとめ

北朝鮮の不審船には、重装備の自衛隊が対応するのが適切です。海上保安庁の船では、民間船舶の取り締まりしかできません。

つまり、中国の海警局や北朝鮮工作船のような公船には警告しかできません。

国際法上、公船に対処できるのは軍隊だけであり、自衛隊に領域警備任務を担当させるのがベストでしょう。

しかし、その自衛隊も警察程度の権限しか与えられていないのが現状です。日本の「海の警備」はまったく機能していません。

グレーゾーン事態。すなわち、武力攻撃に至らない侵害とか、警察力の対処能力を超える侵害。諸外国では、そもそもグレーゾーン事態など起こりません。自衛権行使で対応します。

しかし、戦後日本では、自衛権行使を非常に狭く捉えているため、「自衛隊と海上保安庁のどちらが対応するの??」という事態(グレーゾーン事態)になっております。

日本は、諸外国同様に、自衛権行使を国内法で極端に制限するのではなく、「我が国は、国際法上の自衛権により武力行使します」とだけ言っておけばよいのです。

常に最悪のシナリオを想定し、どのような状況においても対応できるようにしておく。相手の正体がわからないような危険な状況では、はじめから軍隊を投入する。このような国際社会の常識が日本政府にはありません。

海保は国土防衛任務すら与えられておらず、自衛隊も海保同程度の武器使用しか認められておりません。グレーゾーン事態は、現状対応不可です。このような状況を一刻も早く変えていくべきでしょう(了)。

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