「基地外での米兵による犯罪率は、日本人の犯罪率の約半分だ」
2008年7月在日米軍司令官エドワード・ライス(Edward Rice)氏の記者会見の言葉。
当時もいまも、「裁かれない米軍犯罪」「基地の周りでは米軍犯罪が多く無法地帯となっている」という一般認識があるので、
ライス氏の発言に違和感を覚えた日本の方は多かったと思います。
当時、ライス氏の発言の反響はすさまじく、「はたして在日米軍の犯罪は多いのか、少ないのか?」と疑問はいまもつきません。
新聞やメディアの報道をみると、やはり「米軍犯罪は多い」というのが多数派です。
その中、少数派ですが、米軍犯罪は少ないという意見もありました。米兵犯罪は日本人犯罪よりも少なく、凶悪事件を過度に報道する印象操作であるという内容です。実際はどうなのでしょうか?
※統計データは、警察庁の『犯罪統計資料』や沖縄県警の『犯罪統計資料』など、公開されているものを確認しました。
米兵犯罪は少ないと主張する2つのポイント
米兵犯罪は日本人犯罪よりも少ない(肯定派)という主張のポイントは2つあります。
ネットで確認できた肯定派の統計データの分析の仕方と同様、私も統計データで再検証してみます。
沖縄県警がHPで『犯罪統計資料』を公表しております。
そこには在沖縄米軍人・軍属及びその家族による検挙件数・検挙人員のデータが掲載されています。
H30年のデータでは、米軍構成員事件では検挙件数31件、検挙人員が32人です。一方、沖縄県全体の全刑法犯の検挙件数は3919件、検挙人員は3006人でした。
沖縄県人口は145万人に対し、在日米軍・軍属及びその家族の人数は4.5万人です。
つまり、全体で犯罪者数を割ってみると、日本人犯罪率は、3006÷145万人=0.20%に対し、米兵犯罪率は32÷4.5万人=0.07%となります。
米兵犯罪は、日本人犯罪よりも犯罪率が半分以下であるというライス司令官の発言は裏付けられることになります。
では、多数派であるライス発言否定派の主張が間違っているのでしょうか。
【分析方法の誤り】検挙件数をデータに選ぶのは不適切?
確かに否定派が、「こんなに凶悪犯罪があるのだ!少ないわけがないだろう」という印象論で語っているのは事実だと思います。
しかし、単なる印象論で片付けるのも実は正しくありません。
気になるのは、統計データの分析の仕方です。まず検挙件数や検挙人員のデータで分析している点です。
分析の前提となる!認知件数と検挙件数の違いとは!?
たとえば、警察庁が公表している『犯罪統計資料』(H31.1~R1.12)では刑法犯の総数が約74万。
ですが、これはあくまでも認知件数であり、検挙件数は約29万人。
認知件数とは、実際の犯罪発生数とイコールではありません。あくまでも警察がある事実を刑法に違反する行為として認めた数のこと。
つまり、一般人からの通報や告発などで警察が犯罪を認知できた数であり、被害届が出されていなければ、そもそもこの認知件数に入らないのです。
一方、検挙件数とは、警察が犯罪事件を解決した数(犯人を特定した数)を指します。
たとえば、逮捕も検挙の1つです。
逮捕は犯人の身柄を拘束する手続きのことを特に指します。検挙の場合は、身柄拘束は場合によります。多くは任意同行です。
逃げたりしなければ、逮捕、物理的に身柄を抑えられることにはなりません。
京都アニメーション事件の放火事件。警察は犯人逮捕にこだわりましたが、本来は「逮捕」する必要がありません。容疑者が病院で重症患者となっており、逃げられる心配などないからです。
在日米軍は日本国内でもっとも検挙(逮捕)されにくい組織
警察にとって検挙とは企業の「売上」みたいなもの。ですが、
くり返しますが、検挙数とは犯罪発生数ではありません。犯人を特定、解決した数が検挙数。
日米地位協定、またその密約を含む、日米合同委員会での合意により、そもそも日本の警察や司法の管轄外の領域にいるのが在日米軍です。つまり、日本で一番検挙されにくい最強の組織です。日本の政治家以上でしょう。
肯定派の誤りは検挙数を分析データに選んだことす。
検挙件数で比べると、在日米軍の犯罪件数は著しく低くなります。そもそも検挙されないのですから。
「裁判権放棄密約」で米兵は裁かれない…
そもそも米兵が検挙(逮捕)されないシステムとはいったい何なのか。
日米地位協定という在日米軍人・軍属及びその家族の日本国内の特権を定めた国際協定があります。
その地位協定第25条に、地位協定の実施に関して日米が話し合う協議機関として日米合同委員会という機関が設けられており、
米兵犯罪を見逃してあげる日本政府
「密約」のひとつが「裁判権放棄密約」。
日米地位協定第17条(刑事裁判権)では、米軍犯罪を日米どちらに裁判権を認めるか、について記されています。
公務中の犯罪や米軍同士の犯罪(被害者も加害者も米軍)の場合は米国が、公務外の犯罪は日本が第1次裁判権を持つことになっております。
しかし、日米合同委員会の非公開議事録(53年10月28日裁判権分科委員会・刑事部会会合)で、
日本にとっていちじるしく重要と考えられる事件以外については、第1次裁判権を行使するつもりがない
と、日本側の代表が約束しています。合同委員会の議事録は原則非公開で、日米双方が同意した場合のみ公表される、非常に機密性の高い文書です。
が、米側の公開文書によりその事実が発覚しました。
2011年8月松本剛明外相(当時/民主党政権)もその事実をいったん認めたのですが、その後、
日本側代表の発言は、起訴・不起訴について日本側の運用方針を説明しただけで、日米間の合意ではない
と密約を否定するに至りました。
日米双方で公表されたのでもはや「密約」ではありませんが、
米兵犯罪の起訴率は日本人の3分の1以下(裁かれない米兵犯罪)
その後、1953年10月7日付で法務省刑事局長から全国の高等検察庁の検事長、地方検察庁の検事正宛てに「部外秘」の通達が届いていたことが判明しました。
米軍関係者を「法務大臣の指揮」のもとで特別扱いし、一般の刑事事件とは異なる対処をしなければならない
と、その特殊性を強調するものでした。
日本政府は、公的には「米軍関係者の犯罪と一般の犯罪で起訴・不起訴の判断に差はない」と説明しておりますが、
吉田敏浩氏が情報公開法に基づく文書開示請求で得た、軍関係者の犯罪に関する法務省刑事局の統計「合衆国軍隊構成員等犯罪事件人員調」では事実は異なります。
日本政府は米軍犯罪を常に見逃し続けてきたのです(吉田敏浩氏著『「日米合同委員会」の研究:謎の権力構造の正体に迫る』〔創元社〕参照)。
米兵にとって日本は犯罪天国!?米軍犯罪に対する甘い姿勢
私は、一部の否定派の方の過激な意見(米軍は悪魔だから犯罪が多い)に賛同はしませんが、
日本当局の米軍犯罪に対する甘い姿勢。米軍関係者の中に「これくらいなら罪に問われないだろう」という意識が生まれ、米兵犯罪を生む構造的な要因になっているのは確かでしょう。
米軍人や軍属及びその家族の人間性の面ではなく、米軍関係者の犯罪を誘発する構造的な要因の指摘です。
「不逮捕特権」で検挙(逮捕)されない米軍関係者
問題はまだまだ続きます。
日米地位協定第17条5項cには、日本側が起訴するまでは被疑者の身柄は米軍当局の下に置かれるという規定があります。
米軍関係者が「公務中だった」と言えば、日本警察はひとまず米側に身柄を引き渡さないといけないのです。もちろん米軍関係者はこの事実を知っております。
その場合、あとで日本に第1次裁判権があると判明しても、日本側の捜査は任意の取り調べとなるためきわめて難しくなります。
被疑者を十分に取り調べできず、証拠固めが困難となります。結局、米兵犯罪者は起訴できずに事件が終わってしまう可能性が高くなります。
米軍基地内に逃げ込んでしまえばもう安心??
「米軍基地に逃げ込んでしまえばもう捕まえられない」とも聞きますが、残念ながらその通りです。
ただし、日米地位協定第17条第10項に関する合意議事録では
重大な罪を犯した現行犯人を追跡している場合においては、日本国当局が基地内で逮捕を行うことを妨げるものではない
という規定があります。
実態はともかく、凶悪犯罪に関してのみ基地内での逮捕は認められてはおります。
その他の場合でも「米軍の同意がある場合も逮捕できる」とありますが、まず米軍が同意することはありません(末浪靖司氏著『機密解禁文書にみる日米同盟』〔高文研〕参照)。
ましてや米軍基地内では、米軍の「排他的管轄権」が認められているのが実情です。基地内(もはや外国)での米兵犯罪に関しては全く日本国当局は関知しておりません。ですので、
記事冒頭のライス発言も”基地外での犯罪率に限って”と前置きがあります。要するに、基地内では日本人女性が強姦されようが、犯罪事件とすらならなりません。
その場合、米軍司法が「双方の合意があったと認められる」と一蹴することになります。すなわち、日本人女性も楽しんで性行為に及んでいたことにされてしまう。ふざけるな!
目をつけていた日本人女性を朝にレイプし、夕方には国外に逃げる米兵
基地外で罪を犯した場合も、たとえば米兵が罪を犯した当日に、すぐ国外の基地へと移動する予定になっていれば逮捕は不可能になります。実際に起こった事件として、
レイプ事件の中には、夕方にグアムに移動することが決まっていた米兵二人が共謀。早朝に、以前から目をつけていた日本人女性を強姦。そのまま脱出するという計画的犯行も起こっています。
米軍関係者の犯罪がいかに見逃されるか、「不逮捕特権」という実態を、他ならぬ米軍関係者自身がきわめてよく理解しているということです。
日本警察の捜査・逮捕の限界、認知を「にぎる」とは!?
米軍関係者もそうですが、もう一方の当事者、沖縄県民や沖縄県警もその事実をよく理解しています。
米軍のレイプ事件は日本人女性のみならず、日本に観光に来ていた外国人女性にも犯罪が及んでおり、
日本の警察に駆け込んでもせせら笑うだけで全く相手にされなかった。私はそこでセカンドレイプを受けたのだ
という話があります。
これは沖縄県警の話ではありませんが、米兵犯罪に対して日本の警察は”捜査・逮捕の限界”を感じているのは事実でしょう。
泣き寝入りする被害者が続出する事態に
もちろん沖縄県民の方も十分理解しており、被害者の中には米兵犯罪に対し、泣き寝入りする方も多いと思います。
認知件数=犯罪発生件数ではありません。被害届が受理されなければ認知件数にすらカウントされません。ようするに、統計データに表れた数字がすべてではありません。
現状、米兵の逮捕(検挙)は非常に困難。検挙されても米軍特権として不起訴になる確率が高いのですから、警察がどこまで本気で捜査するのか疑わしいです。
警察が被害届を「にぎる」=認知自体をなくしてしまう!
米軍犯罪が少ない説を主張する方にはまだまだ不利な事実があります。警察内部では、検挙数・検挙率が以前は評価対象だったのですが、
最近は「犯罪抑止率」が評価対象となっております。
目標、すなわちノルマに”前年比犯罪抑止率10%減”というものが出てきました。
かりに前年認知件数100件だとすれば、今年は90件にしなくてはいけないということ。
実際、警察庁の『犯罪統計資料』ではH19年は190万人、H20年は180万人、H21年は170万人、H22年は158万人、H23年は148万人、H24年は138万人と認知件数が下がり続けてます。
ちなみにH30年も81万人で、その前年のH31年は74万人でした。毎年約10万人ずつ犯罪件数が減ってのです。明らかに人為的に操作されている数字ではないでしょうか。
それは前年比10万人減という数値目標が出ており、明らかに現場の警察官は被害届を「にぎる」または「つぶす」行為をしています。
「認知をなくしてしまう」ことをしています(小川泰平氏著『警察の裏側』〔文庫ぎんが堂〕参照)。
米兵犯罪は「なかったこと」にされてしまう
犯罪件数は毎年、変動があるのが自然ですが、毎年10万人ずつ減少している。人為的にしか起こりえない現象です。
この事実を見ても、警察は被害届を「つぶし」ているのは間違いありません。
同様に、日本の警察は米軍関係者の犯罪事件をそもそも捜査などせず、「つぶし」てしまっている可能性はあり得ます。
当たり前ですが、認知されなければ検挙もされません。
米軍犯罪は検挙がきわめて難しく、日本の警察は主体的な捜査ができないので、認知すらしていない可能性は高いでしょう。
どうせ逮捕できないのですから、警察も初めから捜査などしないでしょう。ムダです。
まとめ
現在公表されている統計データから米兵犯罪を日本人犯罪と比較することはそもそも適切ではないことがわかりました。
米軍関係者は「裁判権放棄密約」を代表する様々な米軍特権で守られており、逮捕(検挙)することが難しいのです。検挙数で日本人犯罪と比較すると、米兵犯罪率が低くなるのは当たり前です。
また、基地内(もはや外国)での米兵犯罪は闇の中であるし、泣き寝入りしている日本人被害者も多いと予想されます。
このように考えますと、在日米軍関係者の犯罪率は日本人と比べて低いといえる根拠はありません。
基地内犯罪含め泣き寝入りしている方も多いでしょうから、現状、おそらく日本人犯罪率よりもきわめて高いのではとしかいえません(了)。
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警察庁や沖縄県警の『犯罪統計資料』などの統計データを分析した。たしかに、分析方法によっては米軍犯罪率は日本人犯罪率の半分以下となってしまう。
が、「検挙件数」を基に分析する方法である。検挙件数とは、犯人が特定され解決された件数のこと。しかし、米軍関係者はきわめて検挙(逮捕)されにくい特殊な地位を持つ特権的立場にある。
「裁判権放棄密約」による起訴率の低さもそうだが、起訴前の被疑者拘留ができず十分な取り調べができない日本警察。おのずと米兵犯罪に対する捜査・逮捕の限界がつきまとう。
すなわち、米軍関係者は日米両政府により何重にもその特権を守られている。検挙しても不起訴になる米軍犯罪。警察が被害届をそもそも「つぶし」ている可能性もあり、被害者も泣き寝入りしている。
基地内犯罪のデータもない。在日米軍基地は、もはや外国。日本の管轄権が全く及ばない。いったい、どれだけの犯罪(日本人女性へのレイプなど)が行われているのか見当がつかない。
米兵自ら「自分たちは逮捕されない」という事実(≒特権)を知っている。それら米兵犯罪誘発の構造的要因も踏まえると、米兵犯罪率は日本人犯罪率よりもきわめて高いのではないか、と予想できる。
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