まず、日米地位協定とはいったいなんなのでしょうか!?他国にも○○地位協定がありますよね。
実は、日米地位協定も含め、○○地位協定とは第二次大戦後にうまれた国際条約のことで、外国軍が自国に駐留しているときに、その外国軍兵士の受入国での法的地位を定めたものです。
本来、外国軍が自国に駐留しているときは、その国が占領されているときです。よって、基本的に戦時下の現象なのです。
ですが、第二次大戦後は平時においても外国軍の駐留がみられるようになり、
その外国軍の駐留を平時において、その法的地位をどうするか。自国(受入国)と派遣国(駐留軍国)との間で特別な国際協定が結ばれました。
これが、○○地位協定というものですね。
とはいっても、地位協定=治外法権を認めるわけではありません。
外国軍といえどもとうぜん受入国の国内法規は尊重しなければなりません。また一方で、派遣国側はなるべく自由な軍事行動を採りたいと考えます。
※受入国のことを、ホスト国や接受国とも呼びます。
そして、条約内容は、露骨に両国の力関係が反映されることになります。
日本は特に米国に対し不平等な条約を結んでいるのでは!?
そのような評価を受けることがしばしばあります。実際、これは事実です。
本記事では、その不平等な条約内容とともに、なぜ不平等なものになったのか、その背景を丁寧にわかりやすく解説いたします。
占領下の米軍特権を手放したくなかった米国|不平等の根源
米軍は日本占領時、国際法などまったく守らず、やりたい放題をしておりました。実は、占領下でも戦時国際法含めて国際法規は遵守しなければなりません。
しかし、これをまったく守らなかった米国は、占領下の日本で自分たちの好きなように軍事行動をし、日本国内のあらゆる基地や演習場を接収し、
諜報機関の施設さえ設けて、またその運用費用までも日本側に支払わせておりました。
繰り返しますが、このような治外法権を与える慣習国際法は当時も現在もなく、占領中、米軍は国際法を無視した支配を行っていたのです。
52年サンフランシスコ平和条約発効後も、米国は自らの世界戦略のため日本の基地等の自由な使用権を含む、その軍事利用の巨大な権限を手放したくありませんでした。
占領下での米国の特権(治外法権)を引き続き維持するための法的手続きが求められ、それがこれから検討していく旧安保条約と日米行政協定(日米地位協定の前身)です。
日米行政協定(地位協定)が不平等なのは占領下の特権を継続させたものだから、というのが一つの答えです。
※日米地位協定の不平等さの原点を探ると、まずその前身である日米行政協定にふれなくてはいけません。
旧安保条約と行政協定が結ばれたプロセスを検討!
これら条約はどのようなものだったのでしょうか?その旧安保条約の前文をみてみると、その性質がよくわかります。
日本国は、武装を解除されているので、平和条約の効力発生の時において固有の自衛権を行使する有効な手段を持たない。無責任な軍国主義がまだ世界から駆逐されていないので、前期の状態にある日本国には危険がある。
よって、日本国は、(略)アメリカ合衆国との安全保障条約を希望する。(略)日本国は、その防衛のための暫定措置として、日本国に対する武力攻撃を阻止するため日本国内およびその付近にアメリカ合衆国がその軍隊を維持することを希望する
まったく米国政府の傲慢さがあらわれた条約内容、です。
少し余談ですが、占領下の日本で米占領軍は、日本は「軍国主義者の扇動で侵略戦争をした」とその言論空間を支配し盛んにいいふらしました。
それが、7年後の安保条約では、今度は「軍国主義者は世界にいるんだ」と言い始めます。
「侵略戦争」も「軍国主義」も単なる方便で、自分たちにとって気に食わない相手はみんな「軍国主義者」となるのでしょう。
その後、岸信介政権の時に安保条約が改定され新安保条約(1960年6月発効)となり、その際に行政協定も日米地位協定に改定されました。ですが、その実態はまったく変わっておりません。
行政協定が生まれたのは旧安保条約の以下の文言によります。それは、
旧安保条約第3条「アメリカ合衆国の軍隊の日本国内及びその附近における配備を規律する条件は、両政府間の行政協定で決定する」というもの。
米軍が日本で使用する基地や演習場の権利、米軍人の日本での法的権利を定めたものです。安保条約よりも、この行政協定、後の地位協定がより直接的に米軍の”治外法権”を規定したものとなります。
”米国の米国による米国のための治外法権”は○○○憲法が産みの親!?
日米安保条約も行政協定も、占領下の日本で米軍が持っていた特権を、戦争終了後(平和条約締結後)もそのまま持ち続けたいという米国側の意向の下に生まれました。
”裁かれない米犯罪”のように米軍・米軍人の特権がなぜ存在するのかと問うと、
占領下で米軍が持っていた権利が占領後も継続されたからだというのが最もシンプルな解答となります。
世間にはよく知られていないことですが、その米軍占領体制を日本側で補完するのが、日本国憲法なのです。
なぜなら、日本国憲法が軍隊を放棄し、その交戦権も否認してくれたために日本側は安保条約による米軍駐留を希望したのですから。
それは密約でもなんでもありません。さきほどご紹介した旧安保条約の前文にそのまま全て記載されています。
しかしながら、日本国憲法を作成したのは米占領軍です。
まさに”米国の米国による米国のための治外法権を地上(日本国土)から決して絶滅させないために、米国と日本はその安保条約や行政協定で固く決意した”というのが正しい解釈だと思います。
残念ながら、日本国憲法前文は決して日本や世界の平和をうたったものではありません。米軍による日本永久統治を高らかに宣言したものでしかなかったのです。
※日本国憲法の問題点に関してはぜひこちらの記事もご参照ください。

行政協定の条文を逐条解説|米軍の治外法権が明らかに!?
行政協定の中身を確認していきます。
第2条では、
日本国は、合衆国に対し、安全保障条約第1条に掲げる目的の遂行に必要な施設及び区域の使用を許すことに同意する
とあります。
つまり、日本は米軍に基地や演習場(施設及び区域)の提供を同意しました。これはいわゆる全土基地方式で、日本全国どこにでも米軍の要請があれば基地を提供しなくてはいけないという条項です。
他国の地位協定では、条約文に提供する基地や演習場を記載しその使用を限定する条文となっています。しかし、日本ではその定めがなく無制限となっております。
占領下では米軍は自由に基地や演習場を接収し使用していたので、その権利をそのまま継続して認めたということです。
第2条第2項では、
いずれか一方の当事者の要請があるときは、前記の取極を再検討しなければならず
と記され、米側の要求があれば基地や演習場はいくらでも増えるということです。
※実際、米軍は法的根拠もなく日本の領土や領空を自由に使用しております。ぜひこちらの記事もお読みください。

米軍は日本の環境を汚し放題・・・何一つ規制できない日本政府
行政協定第4条は、
合衆国は、当該施設及び区域を返還するにあたって、それらが合衆国軍隊に提供されたときの状態に回復し、またはその回復の代わりに日本国に補償する義務を負わない
とあります。
国有地を民間に貸し出す場合は、原状回復措置が求められるのですが、米軍はそれを負わなくていいということです。
他国の地位協定にみられる、いわゆる「環境条項」が日本には存在しないのです。
有害化学物質などで環境汚染しても責任は問われないので、当然環境保護に対するインセンティブなど働きません。
提供する施設及ぶ区域(基地や演習場)を日本側は無料で提供するという条項さえもあります(第25条第2項a)。
これらもすべて占領下の日本国で米軍が持っていた権利の延長ですね。
※日米地位協定と環境汚染に関してはこちらの記事もご参照ください。
基地の排他的管轄権、”○○”と称して危険な低空飛行訓練もやりたい放題
行政協定第3条は基地の排他的管轄権を定め、
合衆国は、施設及び区域内において、それらの設定、使用、運営、防衛又は管理のため必要な又は適当な権利、権力及び権能を有する。合衆国は、
また、前記の施設及び区域に隣接する土地、領水及び空間又は前記の施設及び区域の近傍において、それらの支持、防衛及び管理のため前記の施設及び区域への出入の便を図るのに必要な権利、権力及び権能を有する
とあります。
”権利、権力及び権能”というワードを2回も登場させていることからわかるように、米軍は絶大な権力を有することを条約文で明確にしたかったという米軍側の意向でしょう。
本来、米軍基地と言えども日本国内法令が適用されるのが国際法の常識ですが、米軍は近傍、すなわちう基地の外でも排他的な権利を行使するとあります。
ようするに、米軍が邪魔だと思えば、基地の外でも建物やそこに生活する住民を物理的に排除できるのです。
また行政協定第5条では、日本の港や飛行場を無料で使用できること、基地や港、飛行場の間を米軍車両や米軍人、家族が自由に移動する権利があること。
つまり、米軍が日本国内をどこでも自由に行動できる権利を意味しており、この規定により車両運送法などの特例措置が米軍のために設けられております。
特に「移動」を拡大解釈し、設定された訓練空域外でも超低空飛行訓練を米軍は行っているんです。
※危険な低空飛行訓練の実態に関してはぜひこちらの記事もお読みください。

ノーチェックで日本に入国できる!?ス○イ天国の実態
行政協定第9条では、米軍は”日本国の旅券及び査証に関する法令の適用除外”が規定されており、また”外国人登録法からも適用除外”です。
民間人はいうに及ばず、他国の外交官ですらパスポートの提示をして出入国審査を受けるのに、
米軍関係者はそれら出入国関係の審査・手続きが一切免除です。
つまり日本政府は、その米軍人の出入国を管理できないということです。ですので、
よく日本はスパイ天国などと言われますが、米軍関係者は完全ノーチェックで日本に出入国出来るということです。
これも他国の地位協定では考えられないことで、米軍関係者は日本に出入国する際は、まったく国境というものを感じていないでしょう。
行政協定第17条(裁判権規定)により、裁かれない米兵犯罪
行政協定第17条は、
合衆国の軍事裁判所および当局は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族が日本国内で犯すすべての罪について、専属的裁判権を日本国内で行使する権利を有する
と、米国の”治外法権”を認めたものです。
米軍人が日本国内で日本の一般人を殺人しようが、強姦しようが、その罪は被害者である日本側でなく加害者側である米側が裁くということです。
当然公平な裁判などされず、凶悪犯罪もほとんど無罪となります。
治外法権とは、”外国に存在する人や物が、その国の外にあるかのように扱われ、当該外国の管轄権、とりわけ裁判権に服しない権利”です
これらも占領下では米軍に認められておりました。占領下の日本で米軍の略奪、強姦は多発しておりましたが、誰ひとり裁かれておりません。
※裁かれない米兵犯罪に関してはこちらの記事でも解説しておりますので、ぜひご参照ください。

補足:行政協定は地位協定となり、平等な条約に変わったのではないですか??
これまでずっと日米地位協定の前身である、日米行政協定の条文を紹介してきました。
しかし、現在では日米地位協定となっており、その不平等さも解消されたのではないのか、という疑問をお持ちのかたは多いのではないでしょうか。
確かに日米行政協定は60年に日米地位協定に改定され、日米地位協定第17条では公務外の犯罪に関しては、日本側が裁くことになりました。
しかし、『裁判権放棄密約』や『身柄引き渡し密約』を中心に、そのほか様々な米軍優位の日米での合意事項により、実態は行政協定下の頃とほとんど変わっておりません。
ですから、本記事では行政協定を中心に解説しております。日米地位協定への改定によって、”見かけ”の上で日米の不平等な立場が改善されました。
しかし、裏で密約を結ぶことにより、米国は何一つ占領時代の特権を手放してはいないのです。行政協定こそ今も生き続けている真の条約であるといえるでしょう。
”不平等さ”を米議会で証言した米外交官さえ存在する!?
このように、旧安保条約と行政協定は米占領軍の権利をそのまま占領終了後も認めたものでしかありません。
旧安保条約第1条(駐留軍の使用目的)では、
この軍隊(駐留軍)は、極東における国際の平和と安全の維持に寄与し、並びに、一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によって引き起こされた日本国における大規模の内乱及び騒じょうを鎮圧するため
日本国政府の明示の要請に応じて与えられる援助を含めて、外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することができる
とあります。
米国の明確な日本防衛義務などは米軍に課されていないのです。
日本側は基地や演習場を提供する義務がある一方で、米軍側はその軍事利用を日本防衛に制限されず、日本を守っても守らなくてもいいのです。
57年2月14日付の駐日米大使館からの極秘報告書
この点に関し、57年2月14日付の駐日米大使館から米国務省宛ての極秘報告書”在日米軍基地に関する報告”では、
行政協定は、米国が占領中に持っていた軍事活動遂行のための大幅な自律的行動の権限と独立した活動の権利を米国のために保護している。
安保条約の下では、日本政府とのいかなる相談もなしに『極東における国際の平和と安全の維持に寄与』するため、わが軍を使うこともできる。
行政協定の下では、新しい基地についての要件を決める権利も、現存する基地を保持し続ける権利も、米軍の判断にゆだねられている。
米国の諜報活動機関と対敵諜報活動機関の数知れぬ要員がなんの妨げも受けず日本中で活動し、
米軍の部隊、装備、家族なども、地元とのいかなる取り決めもなしに、また地元当局への事前情報連絡さえなしに日本への出入りを自由に行う権限が与えられている。
在日米軍基地の特徴は、その規模の大きさに加えて、米国に与えられた基地権の寛大さにある
と報告されております(吉田敏浩『検証 法治国家崩壊』など参照)。
安保条約はアメリカにのみメリットがあると証言した米外交官
当時、行政協定の米側交渉担当者ラスクは、51年1月21日の下院外交委員会の極東・太平洋小委員会での米国議会聴聞会で
われわれは安保条約で、きわめて重要で前例のない権利を日本から与えられています。というのもそれらの権利は、日本の安全に関しては、われわれの側にはなんら義務がなく、
ただ権利だけが与えられているということです。その意味でこの条約はダレスが言ったように片務的な(日本だけが義務を負う)ものなのです
と証言しております。
※ダレスとは、占領終結に関する日米協議交渉担当者であり、安保条約の「生みの親」ともされ、その後アイゼンハワー政権時の国務長官を務めております。
このように、アメリカ側は、日本には特にメリットはなく、アメリカにのみメリットがあるという認識です。
その後の行政協定改定は「○○○」だけ!密約に支配される日本
基地の排他的管轄権や米軍人の犯罪に対する米側の裁判権を認めた条文など、その占領下での米軍の特権、すなわち治外法権を認めた不平等条約の果てに、
日本側のメリットはほとんどありません。これは米国側も認めております。
その後行政協定が旧安保条約とともに改定され、それぞれ地位協定と新安保条約となり、
この不平等の状態が改善されたと思われておりました。
60年行政協定改定はまったくの無意味であった・・・
最近の研究で、日米地位協定は不平等な日米行政協定のままであるというショッキングな事実が知られるようになりました。
米政府は情報自由法(FOIA法)に基づき、米政府の公的文書を一定期間後に公開しているのですが、その中には当然日米間で結んだ外交文書、
日本で非公開の日米間の協議内容や合意文書が多数含まれているのです。
これがいわゆる”密約”の存在です。
米政府がもう公表しているので、厳密には”密約”と言えなくなったのかもしれませんが、
行政協定改定交渉に関し日米両政府は”都合の悪い内容を「見かけ」のみ条文上で変えて、裏で密約を結びひっそりと元通りにしている”ということが分かってきました。
矢部宏治氏はこれを『密約の方程式』と呼び、
「古くて都合の悪い取り決め=新しい見かけのよい取り決め+密約」で切り替えていると主張しております(矢部宏治『知ってはいけない 隠された日本支配の構造』)。
行政協定の不平等な状態のまま、現在の在日米軍の治外法権的な法的権利はいまだに保たれているということです。
※本記事では行政協定の条文を中心に解説しました。その実態を正しく理解するには現在の地位協定ではなく、行政協定のほうが有益であると考えたからです。また、行政協定の内容がそのまま地位協定に引き継がれている条文がほとんどです。
※参考までに日米地位協定の外務省のリンクをはっておきます。今回ご紹介した行政協定とほぼ変わらない条文、そして”見かけ”だけ少し変更されている条文もございます。外務省 日米地位協定全文
まとめ
結論として、日米地位協定が不平等な条約内容となっているのは、米軍に様々な治外法権的な特権を与えた行政協定(地位協定の前身)の内容を引き継いでいるからです。
そして、駐留軍の存在する必要性は、旧安保条約の前文にもある”日本は軍事力を放棄して無防備状態のため”という点にあります。
しかしながら、日本を無防備状態にしたのは、日本から軍隊をなくし、交戦権さえも否認させた日本国憲法を米軍自身が起草し、それを強制的に認めさせた米側に原因があります。
まさに”米国の米国による米国のための治外法権を地上(日本国土)から決して絶滅させないために、日米両政府は安保条約や行政協定で固く決意した ”
という状況が現在も継続しているのです。
日本国憲法に対する賛否の是非が分かれているのは承知しております。
しかし、この日本国憲法でもっとも得をしているのは米国です。
なぜなら、この日本国憲法のおかげで、自分たち米軍はいつまでも日本を好きなように自由に使えるのですから。
まあ米国が作ったものですから、自分たち米国がもっとも得をするように作成したのは当然といえば当然です。
これが日米地位協定という不平等条約の背景にあります(了)。
※日米地位協定、および関連事項に関してはこちらの書籍がおすすめです!
60秒で読める!この記事の要約!(お忙しい方はここだけ)
- なぜ日本国には”裁かれない米兵犯罪”という問題が存在するのか?それは駐留軍規定を定めた日米地位協定、その前身は日米行政協定に治外法権的な法的権利を米軍に認めているからだ
- 米軍は占領下の日本国で、基地や演習場の接収を含む自由な軍事行動を許されていた。占領終了後もその大きな特権を失いたくない米軍および米国は、その特権を維持するために日本と駐留軍協定、日米地位協定を結びたいと考えた
- 日本は、自国の軍事的オプションを壊滅させ、日本を永久に無防備な状態にしておきたいという目的をもった、米軍自らが作成した日本国憲法を強制され、それが米軍の日本駐留の大きな根拠となっている。「軍隊も交戦権もない日本は諸外国に対して、無防備である。だから、米軍が駐留する必要があるだろう」ということ
- まさに”米国の米国による米国のための治外法権を地上(日本国土)から決して絶滅させないために、われわれ(米国と日本)はその安保条約や行政協定で固く決意した”という状態が今も継続している。
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