緊急事態条項をわかりやすく解説 実は諸外国では普遍的、なぜ日本のみ反対!?

憲法
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「緊急事態条項は、徴兵制を許し、日本を戦争に突き進ませるからダメだ」

極端な感情論です。戦争、戦争とあおりたて感情論に訴えることは、全く合理的な思考ではありません。

緊急事態条項は、実際、憲法学のテキストでは国家緊急権としても扱われており、諸外国では憲法条文に記載があるのが普通です。

この時点で、もはや緊急事態条項導入=侵略戦争突入という妄想は捨て去るべきだと思います。諸外国は、常に侵略戦争をしているのでしょうか。憲法条文に緊急事態条項に記載があるからといって、侵略戦争に突入するなど、論理の飛躍もいいところ。

とはいえ、はたして緊急事態条項を現行憲法に加憲すべきものなのか。諸外国に記載があるので、我が国も右に倣え、というわけにはいきません。こちらの記事では、緊急事態条項の定義、実態から説明し、日本国憲法に加えてもよいものか、少しまとめてみました。

緊急事態条項は諸外国の憲法では普遍的な条文

緊急事態条項とは、日本が戦争や大災害などで、国家そのものの存立が危ぶまれるような事態が生じた場合、国民全体の利益のために個人の権利を抑制できるというもの。

一般的に、諸外国では憲法に記載されています。

本来であれば、現行憲法にもともと記載されていてもよいものです。

ですが、日本国憲法は、日本国民のために作られたものではありません。米占領軍が日本に軍隊を持たせず、対外侵略などの脅威から無防備な状態を作り出し、

自分たちの支配下に置くことを目的に作られました。

ですので、日本国民の保護などは念頭になく、とうぜん緊急事態条項の記載も考えられるわけがありませんでした。

日本国憲法の性質を考えると、「日本国民を守る」緊急事態条項は、日本国憲法に必要と思えなかったのでしょう。

彼ら米占領軍が緊急事態条項を日本国憲法からなくしたのはそのためです。

♦抵抗権は認めるが、国家緊急権を否定する学会の多数派

学会では、緊急事態条項をどのように扱われているのでしょうか?

憲法学のテキストでは、緊急事態条項ではなく、国家緊急権としても説明されております。

国家緊急権は、憲法保障の項目で説明されます。憲法保障とは、憲法に対する侵害行為の防御制度をいいます。

そのうち、非常的憲法保障として扱われております。

非常的憲法保障とは、戦争・内乱・自然災害のような例外的状況での憲法保障をいいます。

憲法保障には2つあり、国家緊急権と抵抗権です。前者は多数説で否定され、後者は肯定されております。

抵抗権とは、国家権力により国民の権利に対する重大な侵害が行われ、合法的な救済方法がもはやなくなったとき、国民自らが権利を守るために政府を打倒することが可能であるという権利です。

学会の多数説で肯定されています。

一方で、国家緊急権は、戦争など例外的な場合に、国家自らがその保持のために発動する権力であり、憲法秩序を一時的に停止し、平時なら違憲となる国家権力の行使(≒私権の制限)を認める権利です。

学会の多数説は、一時的にせよ憲法秩序を破る行為を国家に許すものであり、それ自体が近代立憲主義秩序に対する危険をはらんでいると主張しています。

国家緊急権は抵抗権の中に吸収されてしまうという見方もあります。

要するに、日本の憲法学会は自国政府の権利侵害には積極的に戦えばよいが、戦争という外国政府による権利侵害には無頓着であるべきだといいます。

抵抗権の中に国家緊急権があるというのは、自国民が民間組織を立ち上げて外国軍に立ち向かい、撃退すればよいという主張です。

はたして自国民がその場しのぎで作り上げる民間防衛部隊で、外国軍の侵略行為に対し有効な防衛を行えるのでしょうか。日本の憲法学会の考えでは、それが可能であるとのこと。

よって、憲法9条にもとづき自衛隊を解散させ、外国軍に侵略されたら国民が民兵やゲリラとなって戦えばよい。そういう結論になります。

♦自国政府への不信感を育む日本国憲法の本質

彼ら学者は冗談で主張しているわけではありません。

そもそも日本国憲法は、米占領軍が作ったもの。とうぜん、日本国民にとってよいものではありえません。

日本国民や日本政府は抑え込まなくてはならない敵である。現行憲法には、日本を外国に支配されやすい状態を作るという絶対命題があります。

ですので、外国軍の侵略が危険と言う認識自体欠けています。

外国政府に対する絶対の信頼があり、自国政府に対する極度の不信感を醸成する。そういう性質が現行憲法にはあります。

政府による自国民への権利侵害と、外国軍による自国民への権利侵害とは全く性質が異なりますが、

それを同列に論じるか、それとも後者を論理的思考から外してしまう。

※ともかく外国軍による自国民への権利侵害に対する防御をどうするか、という考えがそもそもありません。

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♦外国政府は自国政府より紳士的なので安心? 戦後日本人の愚かな「ロマンティシズム」

自国民による強い意思のもとに、平時より準備された自国軍隊こそが、外国軍の侵略行為に対する最大の防御となります。

もちろん戦争反対という主張が間違っているわけではありません。

ですが、外国軍による侵略行為、あるいは外国軍の強大な軍事力を担保とした外交力により、

自分たちの自由な生活を壊されるのを未然に防止するため、自国軍隊による軍事力醸成じょうせいは必要です。

戦争反対はともかく、自国の軍事力醸成にまで反対するのは間違いです。

日本国民も、日本政府より外国政府・外国軍がより紳士的に日本国民を扱ってくれると本気で考えているわけではないでしょう。

しかし、現行憲法の世界観は、自国政府に対する徹底的な不信感と、外国政府に対する楽観的な信頼感で構成されております。

緊急事態条項など、戦時を含めた非常時に、自国政府に強大な権限を与えるのは危険である。自国政府を信頼するな!という意見は別に構いません。個人の自由意志です。

しかし、外国政府や外国軍は日本政府よりも信頼できると考えるのはおかしいでしょう。

♦おわりに:緊急事態条項を日本国憲法に加憲するのは無理がある

緊急事態条項は、諸外国では一般に規定されています。

本来は、もともと現行憲法に記載されていても問題がないようなものです。

しかし、緊急事態条項(国家緊急権)は、日本国憲法の性質を考慮すると、その導入は無理があると思います。

米占領軍が作った現行憲法の目的は、日本を戦争や災害など、非常時に無防備状態にさせること。

外国軍の侵略をどうするかという問題はそもそも想定外。

もし緊急事態条項を導入したいのであれば、日本国憲法を破棄あるいは無効とし、大日本帝国憲法を復元させる以外にないでしょう。

繰り返しますが、日本国憲法はその性質上、自国政府に対する極度の不信感と、外国政府に対する絶対の信頼感を醸成する素地があります。

要するに、緊急事態条項により、日本政府や自衛隊が適切に外国軍に対処するのは反対である。日本政府よりも外国政府の方が紳士的であり、信頼できるからということです。

この結論をおかしいと感じるか否かは、各人しだいだと思います(了)。

※日弁連の、憲法改正による緊急事態条項の創設反対のリンクもあげておきます。当然、外国軍の侵略の危険性などまったく想定しておりません。自国政府の権力濫用のみ危険視しております(憲法改正による緊急事態条項創設への反対声明 | 日本弁護士連合会HP )。

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