彼ら在日米軍の特権は数限りなく、在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定とともに、協議機関である日米合同委員会の合意・議事録などでも認められています。
合意や議事録をほぼ非公表とし闇の中とする日本政府。一方、沖縄では、
他国の地位協定と比べ、日米地位協定の実態を解明する試みが行われております。「日本は諸外国と比較し、不利な条約を結んでいるのはないか」という疑念。
沖縄県の地位協定ポータルサイトでは、諸外国の地位協定と比較し、日本は他国よりも不平等な点が多いと発表しております(地位協定ポータルサイト-沖縄県)
政府は、他国と比べて特に不利ではないという公式見解。
他国との地位協定との比較においても、日米地位協定が接受国側にとり、特に不利なものとなっているとは考えておりません
引用元:平成25年5月14日の参院予算委員会での安倍首相(当時)の国会答弁
このように、政府と沖縄県では真っ向から意見が対立しております。
今回は、アジアや中東の米軍地位協定と比較しながら、果たしてどちらの主張が正しいのか。実際に地位協定の条文を見比べながら整理していきたいと思います。
米軍基地や演習場の管理・使用権限は日本が不利
在日米軍には原則”国内法適用なし”とし、できうる限り米軍に軍事活動のフリーハンドを与えようとしている日本政府。
しかし、アジア・中東諸国では違います。基地や演習場の管理、使用に関して条文を比較すると。
イラク地位協定第27条は「イラク共和国の国土、海域及び空域は、他国への攻撃の出発地点もしくは中継地点にしてはならないものとする」。
イラクの基地から米軍に自由出撃を許可すると、他国の戦争にイラクが巻き込まれてしまう危険性があるためです。
一方、日本は「事前協議制度」がありますが、”一度日本の領海に出てから出撃命令を受けた場合は、事前協議の対象外”となり、形骸化しています。
実際に、ベトナム戦争等多くの戦争に在日米軍は参加していますが、事前協議が行われたことは一度もありません。
日本の主権が日米地位協定条文に登場しない!(日本のデメリット)
イラク地位協定は米軍の長期の駐留を前提とした他の地位協定とは違い、条文中に”米軍の撤退時期”が明記されております。
米軍基地の永続化も認められず、そういう意味で一概に他の国の地位協定を比較することは出来ません。
しかし、アフガニスタンでは、第10条(車両・船舶及び航空機の移動)で「アフガニスタンの主権を完全に尊重する」と3回も主張し、アフガンの全ての国内法を在留米軍が守るべしと規定しています。
米軍特権は、上空の通過料、航行料、飛行場の着陸・駐機料などの支払いが免除される程度。
米軍が国内航空法の適用を一部免除されて、危険な空の使用を許されている日本とは天地の差があります。
環境問題発生時にも基地へ入れない日本(日本のデメリット)
アフガニスタンの第7条(施設及ぶ区域)にも「米軍は、アフガニスタンの主権を完全に尊重する」とあり、アフガニスタン当局の基地内への出入りがいつでも認められております。
ところが、日本では環境問題発生時にのみ米軍の許可を得て基地への立ち入りが認められます。
フィリピン地位協定第8条(船舶及び航空機移動)でも「在留米軍は、地元の航空管制規制を遵守する」とあり、日本より有利な規定。
例外は、韓国の地位協定。第3条(施設及び区域)は日本の第3条、第10条(船舶及び航空機の使用)は日本の第5条、第12条(航空交通管制及び航法援助)は日本の第6条、
第22条(刑事裁判権)は日本の第17条とほとんど同じです。日韓それ以外のアジア・中東諸国でも格差があります。日韓はあまりにも不利。
アジア・中東では米軍兵士を裁けない
となると、日韓の地位協定が世界で最も不利?
米国防総省指令5525.1では、地位協定における米国の方針として「外国の刑事裁判に付される米国人員の権利(人権)を出来うる限り最大限保護することが最も重要である」とし、NATO軍地位協定以上のものは他の地位協定には与えないと強く主張しております。
刑事裁判権に関する条文では、アジア・中東諸国の地位協定は欧州のものと比べて非常に不利な規定が多いです。
一方、日韓はまだ欧州のものと近い内容となっております。ですが、「見かけ」上はそうなっているだけ。
外交官特権と同様な特権を与えるアジア・中東の地位協定
刑事裁判権に関して、他のアジア諸国の条文比較をします。
モンゴル地位協定では国内での米国の刑事裁判権を完全に認めています。
モンゴルは明らかに公務とは無関係の米兵犯罪事件に対しても、米国に裁判権の放棄を求めることしかできず、米国はそれに“好意的な配慮”(sympathetic consideration)を払うのみです。米軍に完全な治外法権を与えています。
アフガニスタン地位協定でも、米軍や軍属に対し、外交関係に関するウィーン条約と同様の刑事裁判権免除を与えております。
ウィーン条約第31条(裁判権免除)とは、外交官は接受国の刑事裁判権から免除され、公務ではない個人の不動産の訴訟、公務外の商業活動の訴訟などを除けば、たとえ民事・行政裁判であっても免除されるというもの。
モンゴルやアフガニスタンでは、刑事裁判権に関し米軍に非常に有利な特権を与えています。
諸外国と比べ地位協定の権利対象の範囲が広い(日本のデメリット)
イラクは日本ほぼ同じですが、刑事裁判権免除を受ける対象が日本より限定されております。
米軍基地で働く人間は「米軍人、軍属、業者の3種類」があります。軍属とは、米国防総省に直接雇用された人たち。業者とは、基地内でのサービスを行う人たちのことです。
世界では刑事裁判権免除を与えるのは軍人と軍属だけで、業者は不適用とされるのがスタンダード。一方で、日本はありえないほど不平等です。
日米地位協定は比較的初期に作られた地位協定で、第1条(定義)に「業者」の記載がなく、業者と軍属の区別が曖昧。業者であっても刑事裁判権が免除される。他国と比べて地位協定の権利対象に含まれる範囲が広すぎる。
フィリピンも日本同様、公務中の犯罪は米国に第一次裁判権があります(第5条)。が、米軍当局が発行する公務証明書は”公務執行中だったことの十分な証拠となる”と記載があります。
本来であれば、フィリピンの裁判所が、犯罪を犯した米軍人が公務中か否かの判断をするべきです。
公務証明書は、あくまでも参考資料扱いでしょう。ですが、十分な証明力を持たせてしまっております。フィリピンの在留米軍の地位協定もホントにひどい!
日本では「表」の条文はともかく、「裏口」ともいえる密約で”捜査段階での公務証明書の効力”を認めてしまっています。運用面でいえばフィリピンと変わりません。
”裁かれない米兵犯罪”は他国でも同様の問題
”裁かれない米兵犯罪”はフィリピンも同様。
フィリピンの米軍駐留の歴史始まって以来、初めて米兵のレイプ犯を裁いたのが2005年のスービックレイプ事件です。
スービック元米海軍基地があるオロンガポ市では、これまで三千件ものレイプ事件があり、全く裁かれたことはありませんでした。米政府やフィリピン当局による圧力などが司法の処理を妨害してきたのです。
結局、この2005年事件も1審では40年の懲役が米兵に言い渡されましたが、被害者の家族が執拗なバッシングをされる中、控訴審では被害者が告発を取り消すことで無罪放免となりました。
被疑者の米兵はすぐフィリピンを出国し、今では自由に米国に暮らしております。
米軍は、米軍人の海外での乱暴狼藉を、外交的圧力で「保護」しております。
背景には、米国民の”俺たちは外国を守ってやっているんだ。なのに、外国に処罰されるなどけしからん”といった感情があります。
あまりに身勝手な主張。米軍は自らの世界戦略のために他国を利用しているだけです。日本の基地もそうですが、彼ら米軍は米国の利益のためだけに駐留しています。
まとめ
数ある在留米軍の地位協定の中で、基地や演習場の管理面では、日米地位協定がもっとも不平等な条文です。
原則国内法不適用という独自解釈をし、米軍になるべくフリーハンドを与えております。
刑事裁判権に関しては、地位協定条文上では、アフガニスタンやモンゴルよりも見かけ上は有利かもしれません。
しかし、実際の運用面を言えば日米合同委員会で結ばれた非公表の合意・議事録。すなわち、密約により先のフィリピンと同様に”裁かれない米兵犯罪”という実態があります。
結果、日本は決して有利な規定ではなく、アジア・中東諸国と比べて特に変わらない。基地の使用権などに関してはかなり不平等で不利な規定。
今後の方向性として、基地の管理権(立入権等)や運用面ではアジア諸国と比較しても不利な点が多いので、それら他国の条文を参考に地位協定を改定する必要性が高いと言えます。
繰り返しますが、政府の「決して特に不利ではない」と裏付けられるものはまったく存在しません。
よって、沖縄県の主張に軍配が上がったといえるでしょう(了)。
※欧州の地位協定との比較もしております。ぜひこちらもお読みください。
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