「なぜ在日米軍は日本でやりたい放題ができるのか?」
日米地位協定や日米合同委員会(地位協定の運用に関する協議機関)合意や議事録で、在日米軍の特権(治外法権)が認められているためです。
しかし、外務省のHP『地位協定Q&A』では、そのような米兵の特権を否定し、
日本の地位協定は他国の地位協定よりも有利なものだと主張しています。
たとえば、
米軍人が日本で犯罪を犯しても、米国が日本にその米軍人の身柄を引き渡さないのはおかしい。米軍人が本国にさっさと逃げ帰るのに対し、なぜ指をくわえているだけなのか?
という一般質問に対して、
公務外で、日本警察が現行犯逮捕した身柄は日本側が確保できる。
公訴を起こすまでは、米側は米軍人の被疑者を基地内で拘禁できるが、これはNATO地位協定と並んで受入国でいちばん有利な規定。
また、95年の合同委員会合意では、殺人・強姦など凶悪犯罪で日本政府が特に重大な関心を有するものについては、起訴前の引き渡しを行う途が開かれた。
と答えております。
ですが、裁かれない米軍犯罪の報道に接するたびに、この解答に対し違和感を覚えます。
実際、外務省の意見はどこまで正しいのでしょうか?
今回の記事では、米兵犯罪の実際に迫りたいと思います。
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○○内に逃げ込めば、日本警察は手出しができない!?
まず、気になる点は、
外務省が真正面から回答していないことです。
日本警察は、米軍人を捕まえることが難しいのではないか、というのが一般質問の趣旨でした。
この点に関し、日米地位協定条文を確認したいと思います。
たとえば、地位協定第17条5(c)では、検察が起訴するまでは日本側は被疑者を逮捕し強制捜査は行えない規定となっています。
つまり、任意捜査しかできないのです。
米軍は日本警察に協力はできますが、「任意」なので被疑者本人の同意が必要となります。
また米軍は、しばしば犯罪を犯したとされる米軍人を「拘禁」していると主張しますが、
それはあくまでも上官による”基地外への外出禁止命令”であり、基地内は自由に行動できます。
とうぜん証拠隠滅したり、逃亡したりする軍人もいます。
これが、外務省の主張する「米軍は被疑者を基地内で拘禁できる」の実態なのです。
ようするに、基地内に逃げ込めば日本警察は手出しできないのが実情です。
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他国の地位協定も日本と同様に不利な規定!?
NATO地位協定では、第7条5項(c)に以下の条文があります。
受入国(NATO)が管轄権を行使すべき軍隊の構成員又は軍属たる被疑者の拘禁は、
そのものの身柄が派遣国(米国)の手中にあるときは、受入国(NATO)により公訴が提起されるまでの間、派遣国(米国)により引き続き行われるものとする”
とあります。
また、モンゴルやアフガニスタンでは、完全な治外法権を米軍側に認めております。
つまり、受入国が裁判権を持っておりません。
公務中か否かを問わず、刑事裁判権等を完全に米国当局に譲り渡しているような裁判権規定となっております。
確かに外務省の主張通り、”起訴するまで米軍側にお任せする”という規定はNATOにもあります。
これにより、NATOの警察も日本警察も、米軍犯罪に十分に捜査できずに不起訴となる。
すなわち、証拠が集まらなくて無罪放免となる可能性は高いです。
ですが、NATOと同様な水準の地位協定なのかといえば、そうではありません。
日本政府は、次のような密約を米軍と独自に結んでいるからです。
それは、『裁判権放棄密約』や『身柄引き渡し密約』です。
前者は、日本側が第1次裁判権を有していても、特に重大な事件でない限りは自ら裁判権を放棄するというもの。後者は、公務中か否かが不明の時は、米軍当局に身柄を引き渡すというものです。
条文に記載された規定上はともかく、「運用」面での実質を確認すれば話はだいぶ違ってきますね。
※他国の地位協定との比較はぜひこちらの記事も!


凶悪犯罪の起訴前引き渡し(95年合意)はもはや破綻している!
外務省の回答では他にも気になる主張があります。
95年の合同委員会合意では、殺人・強姦など凶悪犯罪で日本政府が特に重大な関心を有するものについては、起訴前の引き渡しを行う途が開かれた
”途が開かれた”という表現からもわかる通り、
日本側は、要求は一応できますが、米側に応じる義務はありません。
あくまでも”好意的配慮”を払うだけです。
なお、この好意的配慮という言葉は、米軍との取り決めでしばしば登場する言葉です。
実際、この95年の合意後、1996~2011年で米兵による日本人女性への強姦事件35人中30人は逮捕されず不拘束、殺人も9人中3人が不拘束となっています。
この合意が実質的になんの意味もなく、凶悪犯罪の一部は公表すらされないのが実情です。
また、95年合意には”日本政府が特に重大な関心を有するもの”とあり、
すなわち、”マスコミなどで大々的に報道された事件”がそれにあたります。
したがって、報道(公表)されなければ日本政府に対し”身柄引き渡しを要請しろ!”との声も上がらないわけです。
ところが、報道された事件においてもその実態は厳しいのです。
たとえば、米海兵隊員が飲酒で女子高生をひき逃げし死亡させた事件(98年10月)や米海兵隊員による飲食店放火事件(01年1月)。
両事件とも報道されておりますが、米側は起訴前身柄引き渡しを拒否しております。
もはやこの95年合意は事実上”破綻”しているといってもいいでしょう。
外務省が「95年合意がありますよ!日本は有利なんです!」宣伝するのは、
残念ながら首を傾げざるを得ない主張なのです。
2003年女性強姦事件を経て、さらに米兵に有利な規定に??
しかし、95年合意の後に、2004年合意というのが実はできております。
2003年5月、米軍兵士による日本人女性強姦事件が発生。
怒りに満ちた国民世論に対応するべく、外務省は次のような合意を結びました。
2004年4月に結ばれた合意は、以下の変更点がありました。
起訴前の身柄引き渡し時は、捜査権限を持つ米軍司令部代表者(通訳や弁護士含む)が取り調べに立ち合いができる
というものです。
日本では取り調べ段階での弁護士立ち合いは認められておりません。
それを米軍には認めよ!というものです。
日本側には有利な変更点は何もなく、逆に米兵の人権に関する権利保護の規定が盛り込まれるというものとなりました。
いったい、これが外務省による「運用改善」らしいです。
米国では、一般にミランダ警告という法制度上の決まりがあります。
刑事が逮捕前に被疑者に告げるもので、”取り調べに弁護士の立ち合いを求める権利”があるのです。
つまり、米兵が公正な裁判を受けることを保障せよという要求だったと思います。
司法文化の違いであり、”とんでもない要求をしたったぞ!”という感覚は米軍側にはなかったとは思います。
しかし、”これでは外務省は何のために交渉をしたのか”ということになります。
結局は、日米両政府の力関係の差がまたしても現れたということでしょうか。
もちろん、外務省は恥ずかしさのためか、米軍にさらなる譲歩をしたこの合意を自ら暴露するようなことはしておりません。
まとめ
結論として、現在でも”米兵は基地に逃げ込みさえすれば身柄引き渡しをされないので、かなり有利になる”という実態は変わっておりません。
凶悪犯罪の起訴前身柄引き渡しも強制力はまったくなく、
米軍側は”好意的配慮”を払うのみで、拒否されることもあります。
逆に日本政府側が、密約などにより自ら裁判権を放棄したり、要請したりしないように「配慮」しているのです。
実際に配慮しているのは米軍側ではなく、日本側であるという非常に残念な実情であります。
なぜ外務省は”日本側に有利な規定だ!”と胸を張るのでしょうか。
その点にこそ首を傾げざるを得ません(了)。
※裁かれない米兵犯罪に関してはぜひこちらの記事もお読みください。

60秒で読める!この記事の要約!(お忙しい方はここだけ)
- 「米軍人が日本で犯罪を犯しても、米国が日本にその米軍人の身柄を引き渡さないのは不公平。米軍人は米国に逃げ帰るのではないか?」という一般質問。外務省HP『地位協定のQ&A』では真正面から取り上げない。
- 実際、上記の質問者の疑惑通りである。米軍人は、日本警察の十分な取り調べから逃れられる規定となっている。
- が、他国の地位協定でも条文上は変わらない。しかし、日本では『裁判権放棄密約』や『身柄引き渡し密約』などが存在する。他国以上に、日本側の裁判権、捜査権を制限する運用がなされている。諸外国も運用上、様々な『地元ルール』がある。ともかく米軍の犯罪天国。
- 95年の日米合同委員会合意では、凶悪犯罪に限っては起訴前の身柄引き渡しの日本側の「要求」が認められた。が、米側に応じる義務はなく、「好意的配慮」をはらうのみ。
- 96年から11年まで米兵の凶悪犯の8割強は不拘束。日本側は米軍に”配慮”し、引き渡し要請すらしていない。外務省HPの自信に満ちた回答とは、恐ろしくかけ離れた実情となっている。
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