斎藤知事を逮捕したい 罪状はある?機能しないパワハラ防止法?

政策争点
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2024年9月19日、斎藤元彦知事の不信任決議が全会一致で可決しました。

今後、辞職し出直し選挙するのか、そのまま政界引退か。あるいは議会解散し、兵庫県議会に一矢報いるか。

昨今のTVのスタンスはそんな風に面白おかしく語るのが実情です。ですが、問題点は他にいくつもあります。1つは「首長のパワハラは構造的問題という性質はないか?」

たとえば、貧困問題は本人の自己責任!働かないで甘えている奴が悪いという暴論は今でも根強いですよね。貧困問題、つまり、失業やワーキングプアは社会構造的問題であるという現実から目を背けたいのです。

今回の問題も同様です。元大阪府知事である橋下氏は某TVにて「僕の肌感覚だと、どこの知事・市長もこんなパワハラはやっている。首長はお殿様。やりたい放題だよ」と。

つまり、斎藤知事の個人的要因、パーソナリティではなく、構造的問題という指摘です。となれば、斎藤知事ひとりをやり玉に挙げ、辞職に追い込めば万事解決するという見方は誤りです。

もう1点気になったのは、Youtubeのコメント欄が「逮捕せよ」の大合唱。逮捕は刑事事件にて、犯人に逃亡可能性や証拠隠滅の可能性があることが前提。パワハラやおねだりはどの自治体の首長、会社の社長でもやっている。政治的責任、道義的責任は認めますが、刑事罰を受ける責任などあるのでしょうか。その点が気になりました。

以上の点を論点とし、TVのありきたりの議論に聞き飽きている方、事件の本質を突き詰めて考えたい方はぜひお読みいただけると幸いです。

知事、市長らにとってパワハラは日常茶飯事!?

冒頭でも挙げましたが、「20メートルを歩かされただけでも激高する」。こんなのは霞が関や他の自治体の首長も「同じことやってますよ」というのが橋下氏の主張。

もちろん橋下氏はパワハラを推奨しているわけではなく、今では「パワハラ防止法」もあります。大企業では2020年6月からパワハラ防止措置が義務化され、中小企業も、2022年4月からパワハラ防止措置が義務化。

正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」です。長いので、縮めて「労働施策総合推進法」、あるいは「パワハラ防止法」とも。が、この法案は機能しているのでしょうか。

そもそもパワハラ防止法は、国家公務員、地方公務員は適用除外されている条項が多いんですね。法律を作ったのが彼ら国会議員なので、なるべく適用対象を除外している。

国家公務員の場合は、人事院規則10-16が「パワハラ防止法」に代替し、パワハラの定義は以下の通りです。

第2条 職務に関する優越的な関係を背景として行われる、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動であって、職員に精神的若しくは身体的な苦痛を与え、職員の人格若しくは尊厳を害し、又は職員の勤務環境を害することとなるようなもの。

ですが、ただの画餅です。苦情相談に対して必要な処置を求めるだけで、何の罰則もありません。一応、各省各庁の長は「当該職員が職場において不利益を受けることがないようにしなければならない」とありますがね。

加害者を裁く罰則がない。例えば、パワハラをした〇〇課長を地方に出向させるとか、何らかの「隔離処置」さえ実施されるか不明。こんなんでパワハラがどうにかなるわけあるかい!!

企業や地方公務員にも適用される「パワハラ防止法」を確認すると、実はパワハラという言葉すら出てこない欠陥法なんですよ。

ですから、いわゆる「パワハラ防止法」なんです。私が国家公務員の人事院規則を先に紹介したのは、こちらの規則はパワハラを明記し、定義づけされているから。こっちのほうが分かりやすいと思ったからです。

「パワハラ防止法」条文を確認すると、「労働総合施策推進法」という呼び名の方がしっくりきます。第1条の目標は「労働生産性の向上」です。第3条の理念は「円滑な再就職」。第16条は「職業訓練の充実」ですよ(笑)。

もはや「パワハラ防止法」という名称自体そぐわない。一応、雇用管理上の措置として第30条の2に、

「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」とある。人事院規則のパワハラの定義と同様な文言があるだけ。

ですが、人事院規則のように、明確にパワハラを定義し、禁止しようとは全くしていません。ただ相談窓口を設けましょう、程度のもの。第30条の2第2項には、「相談した従業員に解雇など不利益処分をしてはいけない」と禁止規定が申し訳ない程度にぶら下がっているだけ。

第30条の3は「事業主は自らの言動に注意しましょうね」という”保育園のルール”が乗っかっています。もはや笑い話。国は、パワハラ防止に全く興味がないんです。

第33条に厚労省が事業主に対して助言、指導又は勧告を行い、従わない場合は公表する。それだけ。一般的に「パワハラ防止法」に罰則はないと説明する識者が多いですが、これは間違い。罰則はあります。

地方公共団体の長が、地元で大量の失業者があふれかえっている。そんな時は厚労省に必要な措置を要請できる。厚労省は学識経験者から意見を聴取する。その学識経験者が会議内で得た秘密を外部に漏らした場合、第39条にて「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」ことに。

また厚労省は、事業主に対し、パワハラに関する第30条の2第1項、第2項の規定の施行に関し、必要事項の報告を求めることができる。この報告をしない、あるいは虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料に処する(第41条)。

こんなもんです。実質的には”罰則なし”と考えるのが妥当です。ましてや、斎藤知事のような地方公共団体の長は、取り締まる側です。だから、第38条の2にて適用除外条項がびっしり。そもそも再就職の援助措置に重きが置かれているのですから。

繰り返します。いわゆる「パワハラ防止法」の実態は、労働生産性の向上、再就職の支援が目的や理念。断じてブラック企業のパワハラから従業員を守ることを目的にしてはいない。有名無実どころか、パワハラを取り締まるつもりなどない。必要な措置を講じる(パワハラ防止義務)とは、人事にも加害者にも筒抜けである社内の相談窓口に相談する。こんなんで従業員が守られるか!!

県知事や市長のパワハラどころか、一般企業の社長、幹部社員のパワハラですらまーったく規制対象になっていない。斎藤知事からすれば、「パワハラ防止法(笑)。だから、何?」という認識だと思います。

斎藤知事は何の罪で逮捕されるのか?

Youtubeのコメント欄はともかく「斎藤を早く逮捕しろ!警察や検察官は仕事をしているのか?」という大合唱。気持ちは分からなくもないのですが。実際に逮捕できるのでしょうか。

まず、おねだりに関しては、特産品を地域のPRのために全国の首長はみんなもらっています。一般人でも、仕事先でお土産をもらうこともあるでしょう。おねだりは全く罪ではない。メディアにも困ったもの。

ならば、パワハラで逮捕されるのでしょうか。これも先ほど確認した通り、パワハラは罪ではない。罰則がない。パワハラ防止措置に関し、厚労省が疑念を感じたときは報告を要請できる。その報告がない、あるいは虚偽があった際は「たった20万円の過料」。パワハラを直接行った当事者を裁くという罰則ではまったくない。すなわち、斎藤知事を刑事事件にて裁くことは不可能。

Youtubeでは「人を二人も殺している奴が逮捕されるのは当たり前だ」という意見も。私は全く理解できません。斎藤知事が拳銃で職員を撃ち殺した?そうではありませんよね。二人とも自殺しているのです。

中学生のお子さんがいじめが原因で自ら命を絶った。そういう痛ましい事件は毎年全国から聞こえてきます。その際、遺族の方が加害者に対し損害賠償を起こす。

こういうケースではほとんどの場合刑事事件にすら問われません。元県民局長の自殺事件の前に、片山元副知事の「犯人捜し」。その際にヤクザ顔負けの事情聴取があったのは事実です。その際に、「お前がこの件を引っ込めないと殺すぞ!家族がどうなっても知らんぞ!」と脅せば恐喝罪にあたる可能性もありますが。今のところ、そのようなニュースは出てきません。

おそらく、元県民局長の自殺に関しては、斎藤知事や片山元副知事らのパワハラ的圧迫があったのは事実であり、ご本人が精神的に参ってしまった部分はあると思います。元県民局長は、県政に対する告発なので、民事での損害賠償も難しいかもしれません。

注目されているのが公益通報者保護法違反。すなわち「犯人捜し」「不利益処分」ですが、これらに関しても罰則はありません。この点でも斎藤知事を刑事事件で逮捕することは不可能。

一応、公益通報を受けた側(企業の窓口等)が正当な理由なく、公益通報者を特定させる情報を漏らすことが禁止されており、違反した場合は、第21条にて30万円以下の罰金。元県民局長は報道機関や一部議員に告発。その事実を知った知事側が犯人捜しを始める。この第21条違反でもないんですよね。

そもそも斎藤知事サイドは「公益通報」にあたらないと主張。公益通報者保護法第2条(定義)にて、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく」とあり、元県民局長の提出文書はクーデター目的、怪奇文書であり、公的な価値がない通報という判断です。

その判断を本来であれば第三者が精査するものを、告発された当事者が行った。この点は確かに責められても仕方がない。すぐに懲戒処分をしたこともタブー。「不利益処分」などの公益通報者保護法違反は認められる可能性は高いですが、それでも罰則はありません。

残念ながら、警察や検察の怠慢ではなく、斎藤知事。彼に逮捕できる余地はないのです。内部告発者を追い詰めて自死させた道義的責任、県政を停滞させている政治的責任はあれど、刑事罰を問えるようなものは見つからない。結論、現状の情報下では、彼を逮捕できる可能性はゼロです。

まとめ

今回の事件は、斎藤知事個人のパーソナリティの問題。斎藤さえ排除すれば政界は良くなるんだという風潮に流されてはいけないと感じております。

斎藤知事だけではない。他の自治体の首長も間違いなくパワハラをしています。一種の組織文化となっているのです。国の法律である「パワハラ防止法」も、実態は全くパワハラを取り締まるものではない。罰則もない。なんら機能していない。

もし機能しているならば、日本の企業文化ともいえるパワハラはとっくに撲滅されて、企業経営者が連日連夜、逮捕される事態になっています。2010年頃よりブラック企業が流行語となった今でも、パワハラを得意技とするブラック企業は一向に減っておりません。

今回の、斎藤という小男の暴挙は、彼個人の問題に留めては決してならない。

今回、周知の事実となりましたが、公益通報者保護法も罰則がない。労働者は、常に経営者の圧迫に耐え続け、違法行為にも手を染めなくてはいけません。

メディアは斎藤叩きが面白く、視聴者もそれを期待している。しかし、もっと本質的な部分に突っ込んでもらいたい。この件をきっかけに、パワハラブラック企業の経営者をも震え上がらせなくてはいけないんです。そのような法律改正に今こそ取り組むべきではないでしょうか。

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